自家消費型太陽光発電の「投資回収年数」は、どのように試算したら良いのか?
A. 導入費用と年間電気代削減額を基に、回収期間を試算します。
要約
投資回収の基本的な計算方法:
自家消費型太陽光発電システムの投資回収は、導入費用を投資額とし、年間の電気代削減額で回収期間を算出するのが基本です。削減額は、発電量、自家消費率、電力単価を基に計算されます。ただし、計算結果はシミュレーションの精度や使用ソフトウェアによって異なり、設計者の手法に依存する場合があります。
投資回収に影響する要因とリスク:
回収が予定通り進まない主な要因として、初期費用の増加、天候不順による発電量低下、電力単価の下落などが挙げられます。これに対処するため、発電量のシミュレーション精度向上やO&M(保守点検)契約の締結が推奨されます。また、災害リスクや電気料金の急変動も考慮しつつ、透明性の高いデータ提供が重要です。
回収期間短縮のための取り組みと成功事例:
中小企業が回収期間を短縮するには、自家消費率を高める運用や補助金の活用、低金利のファイナンスプランが効果的です。成功事例としては、24時間稼働の工場が回収期間を2~3年短縮したケースや、高単価電力契約を削減し大幅コスト削減を実現した例があり、エネルギー需要が高い企業ほど効果を実感しやすい傾向があります。
解説者

インタビュアー

投資回収の考え方
━━━自家消費型太陽光発電システムの導入における投資回収年数は、どのように試算すべきでしょうか?
自家消費型太陽光発電システムの投資における回収年数は、基本的に投資費用と電気代の削減額を計算基準とします。具体的には、導入費用を投資額とし、毎年の電気代削減額を差し引いていくことで回収年数を算出します。
電気代の削減効果を計算する際には、まず「全体の電力消費量の中で太陽光発電によって賄える割合」を算出します。その上で、発電量に自家消費率と電力単価を掛けることで、具体的な削減額を求めることが可能です。
具体例をいいますと、太陽光発電システムの月間発電量が30,000kWhの場合を考えてみましょう。この工場の自家消費率が80%(=24,000kWh)、電力単価が25円/kWhだとすると、月間の電気代削減額は「24,000kWh × 25円 = 600,000円」となります。
年間では「600,000円 × 12ヶ月 = 7,200,000円」の削減効果(買わなくて済んだ電気代)が期待できますので、システム導入費用が6,500万円であれば、単純計算で約10年で投資回収できることになります。
━━━計算の結果はどの設計会社でも同じでしょうか?それとも、設計者によって結果が異なるものでしょうか?
異なります。
どれだけ詳細に計算するかによっても結果は変わりますし、計算に使用するシミュレーションソフトが違うと数値も変わってきます。
投資回収が予定通りに進まない原因
━━━太陽光発電の導入において、投資回収が予定通り進まない主な原因は何でしょうか?
投資回収が予定通り進まない主な要因として、いくつか挙げられます。
- 初期設置コストが想定以上にかかった場合
- 天候不順によって発電量が想定よりも低下した場合
- 将来の電力単価が大幅に下落し、結果として削減効果が減少する場合
ありがたいことに、弊社では「投資回収が予定より遅れていて困る」というご報告をお客様からいただいたケースはありません。
特に大企業のグループ会社など、投資回収を厳密に検証する必要のあるお客様では、発電量やコストなどを細かくチェックする場合があります。こうした状況にも対応できるよう、弊社ではシミュレーションを厳密に行なうだけでなく、O&M(保守点検)サービスをご提供し、発電実績データのご提供や状況報告を含めたサポート体制を整えています。
関連記事:自家消費型太陽光発電を導入した場合、実際にどれくらい電気代を削減できるのか?

投資回収期間を短縮するためのアクション
━━━自家消費型太陽光発電の投資回収期間を短縮するために、企業が取り組めることは何でしょうか?
企業が投資回収を短縮するためには、いくつかの具体的なやり方が考えられます。
- 自家消費率を最大化するために、「電気を使用する時間帯を発電量のピーク時に合わせる」
- 時期や業種に応じた「補助金や税制優遇措置」を積極的に活用する
- 「低金利なファイナンスプラン」を選択し、初期投資の負担を軽減する
━━━過去の事例で、投資回収が特に早かった成功事例について教えていただけますか?
過去の成功事例としては、以下があります。
- エネルギー消費が多い24時間稼働の工場が太陽光発電を導入し、回収期間が2~3年短縮された事例
- 高単価な電力契約をしていた企業が、太陽光発電の導入後に契約容量を削減することで、大幅なコスト削減を実現した事例
エネルギー需要が高い企業ほど、太陽光発電の導入効果を早期に実感しやすい傾向があると思います。
エネルギー消費の多い業界と特徴
━━━エネルギー消費の多い業界や業種にはどのようなものがありますか?また、どのような特徴がありますか?
一般的には製造業、物流業、複合型小売業が挙げられます。
━━━製造業でも特にエネルギー消費の多い業種の例を具体的に教えていただけますか?
製造業においては、業種の特徴というよりも「企業規模」が重要です。より分かりやすく言えば、生産量によってエネルギー消費量は変わります。
━━━その意味では、企業規模が大きい(生産量が多い)会社ほど、投資回収年数も短くなるのでしょうか?
一概にそうとは言えません。
一般的に、企業規模が大きくなるほどエネルギー消費量も多くなりますが、それに伴い太陽光発電の初期投資額も増えることがあるため、一概に生産量が多いからといって、投資回収期間が短くなるとは限りません。
逆に、生産量がそれほど多くない企業でも、立地条件や電力使用の特性によっては太陽光発電と相性が良く、効率的に投資を回収できるケースもあります。重要なのは、企業の規模やエネルギー需要に応じて、最適な発電システムを設計し、適切な形で導入することです。
━━━物流業についてはいかがでしょうか?
物流業については、特にエネルギー消費の多い業種の特徴がいくつかあります。
- 移動式倉庫の設備を有する施設
- 冷蔵・冷凍設備のある倉庫(特に夜間も含めて継続的にエネルギーを消費)
━━━複合型小売業についてはいかがでしょうか?
複合型小売業は、いわゆるショッピングモールが代表例です。製造業で言及した「規模」という点でも、物流業で言及した「冷蔵冷凍設備」という点でも当てはまるため、エネルギー消費量は多くなります。
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リスクヘッジ
━━━リスクを最小限に抑えながら投資回収を計画するためのポイントは何でしょうか?
リスクを抑えつつ投資回収を計画するためのポイントは3つあると考えています。
- 発電量のシミュレーション精度を向上させる(正確なシミュレーションに基づく計画は、予測と実績の差異を最小限に抑える)
- メンテナンス契約を締結し、設備の稼働率を維持する
- 電力契約を見直して最適化し、無駄なコストを削減する
お客様が感じる懸念
━━━実際に提案を行う中で、お客様はどのような点に「不安」を感じられることが多いでしょうか?
実際に「不安だ」と明確にお声をいただくケースは多くありませんが、多くの方が気にされているのは「天候」など、自分たちではコントロールできない要因ではないかと感じています。
たとえば、シミュレーション上は十分に採算が取れる見込みでも、「本当に天候が想定通りになるのか?」といったご不安を抱かれることはあると思います。
その点については、過去の気象データに基づいた発電量シミュレーションを行っており、実績のある手法で精度も年々向上しています。特に1985年以降、天候予測の的中率は着実に上がっており、長期データをもとにした見積もりであることをご説明すると、ご安心いただけるケースが多いです。
他にも自分たちではコントロールできない要因としては次のようなものがあるといえます。
- 災害による設備の全損リスク(特にハザードマップ上で水害や積雪のリスクが示されている地域)
- 電気料金が予想外に急落した場合の投資価値への疑問
━━━自分たちではコントロールができない要因を考慮すると、投資回収のシミュレーションが難しいケースもあると思います。
そうですね。
ただ、製造ラインを増やすような「売上向上を目的とした投資」と比べると、自家消費型太陽光発電は比較的、回収の見通しが立てやすい投資だと思っています。
たとえば、太陽光発電システムへの設備は「いつ・どの程度電気代が削減できるか」といった費用対効果を数字で見える形にしやすく、導入の判断材料が明確になりやすいという特長があります。
売上を増やすための先行投資と比べて、コスト削減を目的としたこのような投資の方が、成果をより具体的に予測しやすいと感じてます。
━━━折原さんのいう売上を増やすための先行投資というと、新たな機械の購入や生産ラインを増やすケースでしょうか。
その通りです。
生産量を増やす設備投資では、営業部門が新たな受注を確保する必要があるほか、その設備を維持するための追加的なリソースも求められます。せっかく製造ラインを増やしたのにその製品のニーズがすぐになくなってしまうことがあるかもしれません。
このように売上を伸ばすための設備投資は複数の要素が絡むため、成果を予測するのが難しいともいえます。
一方、太陽光発電の場合、過去のデータや平均値に基づいた見通しを立てやすく、変数が比較的少ないため、コントロールしやすい投資対象だと言えます。投資判断を行う上では、こうした予測可能性が重要な要素だと考えていらっしゃるお客様が多い印象を持っています。
経営者視点での投資価値
━━━経営者の方の視点で見たとき、太陽光発電への投資はどのような価値がありますか?
お客様の経営者視点では、太陽光発電投資の「確実性」と「再現性」が大きな価値だと考えておられると思います。
繰り返しになりますが、売上の向上を目的とした設備投資はやはり外部要因に左右されてしまう可能性が高いですが、太陽光発電によるコスト削減は電気代が乱高下したりしない限り、安定的にコストカット効果をもたらしてくれます。
投資回収ができた後は「電気代の削減分がそのまま利益として貢献している状況」とも考えられます。
例えば「経常利益率1%」の企業が年間400万円の電気代を削減できれば、それは「売上4億円分(400万円÷0.01)」に相当します。不安定な市場で4億円の売上を維持するのと比較すると、コストカットによって得られる利益の方が確実性と再現性があると考える経営者の方も多いようです。
10年間なら累計4,000万円の削減となり、経常利益率1%換算では売上40億円相当の効果があることになります。電気代が乱高下したり、不況時でも一定量の電気を使用し続ける限りは、削減効果は変わらず、利益の底上げ要素として機能し続ける点も利点だといえます。
━━━ありがとうございました!
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