なぜ“脱炭素”に注目が集まるのか?気候変動による最悪な4つのリスクとは
更新日:2023年8月23日
気候変動への対応は、もはや「エコ」ではない
「地球温暖化」と「気候変動」
連日ニュースでも「脱炭素」について取り上げられるようになった昨今。誰しも一度は「地球温暖化」という言葉を耳にしたことがあると思います。英語でいうと「Global Warming」。頻繁に取り上げられるテーマで、馴染みがある人も多いはずです。
しかしながら、実はこの「地球温暖化」、国際的にはあまり使われていない言葉です。現在の国際社会において一般的なのは「気候変動(Climate Change)」という呼称で、国連や学術論文でも統一されています。
・地球の大気の組成を変化させる人間活動に直接または間接に起因する気候の変化
・比較可能な期間において観測される気候の自然な変動に対して追加的に生ずるもの
(気候変動枠組み条約による)
気温の上昇を意味する「地球温暖化」と、その結果生じる様々な変化を含んだ広い概念を指しています。
気候変動がもたらす様々なリスク
では、より具体的に、気候変動が進行することで我々人類はどのようなリスクに直面するのでしょうか。
そこには主に4つのリスクが存在すると言われています。
・健康へのリスク
・移住リスク
・紛争・安全保障へのリスク
・人権・人道問題への影響
健康へのリスク
最も想像しやすく、身近なのが気候変動が人体へ及ぼす健康面への影響です。その実例は既に世にあふれています。
・気温上昇による高齢者の熱関連死⇒過去20年間で53.7%上昇(2018年だけで29万6000人)
・主要穀物の収穫ポテンシャルが5.6%減少
・海水の温度上昇による漁獲量減少で低・中所得者の人々の重要なタンパク質源が喪失
・心疾患を抑えるとされるオメガ3脂肪酸の接種不足による健康被害
・気候の変化がもたらす感染症の拡散(デング熱・マラリアの感染地域の拡大) など…
さらに、気温の上昇は、病原菌やその媒体となる(マダニ、ハエ、コウモリ)の生息地域や生存期間を拡大させます。また、多数の病原菌が眠るとされる永久凍土の融解を進めるという点でも、今後予想だにしない問題を引き起こすかもしれないといわれています。
移住リスク
「移住リスク」は言い換えると「住むところを追われるリスク」です。
これは、海面上昇によって沈むと言われている島国だけの話ではなく、さらに大規模な問題を引き起こす恐れがあります。
蒸し暑い日本の夏に、多くの熱中症患者が発生してしまうように、人体には、温度と湿度の組み合わせに対して対応できる限界値が存在しています。
それは地球も同様です。地球においては「湿球温度」と呼ばれる指標で測定され、このまま気候変動が進めば、数十年のうちにその限界値に到達してしまい、ペルシャ湾岸地域に人が一切住めなくなるリスクを警告する論文もあるほどです。
ペルシャ湾岸地域には、イラン、イラク、サウジアラビアなどが位置し、移住を強いられるのが総人口の1/5程度だと仮定しても、その数は3000万人に上ります。
2011年に始まったシリアの内戦によって、660万人(2019年末時点)の難民が国外に避難しています。トルコをはじめ、多くの難民を受け入れた隣国では、文化や宗教の違いによる地元民と難民との衝突も相次ぎ、それに拒否反応を起こすかのごとく、欧州では社会が右傾化する現象も起きました。
その規模から想像しても、気候変動がもたらす移住リスクの恐ろしさは推し量ることができるでしょう。
紛争・安全保障へのリスク
人類の歴史を鑑みると、衣食住の不安定化や、人の移動が戦争や紛争を引き起こした例は非常に多くあります。
そして、今や気候変動がその原因になりかねないのです。
2021年に米国の国防総省が「気候変動は国家安全保障の脅威」としての認識を示しています。また、国連では「気候変動は衣食住などの社会基盤を損ね、移住の増加などで、安全保障にも悪影響を及ぼす」として、「気候安全保障(Climate Security)」の概念も定着してきています。
もちろん、気候変動が紛争や暴力の直接的な原因になるか否かについては、まだまだ議論の余地がありますが、「脅威を悪化・倍増させるもの(threat multiplier)」という認識は安全保障の専門家たちの間で一般的になりつつあります。
事実として、再エネ促進に世界が傾く中で、原油や天然ガスを世界に供給してきた大国が隣国に攻撃を始めた悲惨な例を、私たちは目の当たりにしています。
人権・人道問題への影響
国際的な人権問題を扱う国連人権理事会は、気候変動が「生命、食料、居住、衛生といった基本的な人権に悪影響を及ぼす」としています。食料や安全な水は、衛生面、健康に直接的に関係し、それは教育など国民の権利へも大きな影響を及ぼすのは自明なことです。
さらに、気候変動が人道問題であるもう一つの側面は、気候変動の原因を作った人と被害を受ける人が異なるといった「公平・公正」の問題があります。
この問題は「気候正義」と呼ばれ、被害から逃れる術を持つ者が、そうでない者を苦しめる「気候アパルトヘイト」という強い言葉で非難されることもあるのです。
まとめ
なぜ脱炭素に注目が集まっているか、また、気候変動によって私たちの身に起こる4つのリスクを見てきました。
これまで、企業が「エコ」として実践してきた地球温暖化への対処とは大きく異なり、いわば「営業許可証」として、取り組まなければいけない課題こそが気候変動です。
言い換えるならば、これまで取り組んできた「エコ」は、企業としての加点要素でしたが、これからは、気候変動へ取り組んでいなければ企業として減点をくらってしまうのです。
参考文献:松尾雄介「脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力」
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