【インタビュー】恒電社が埼玉りそな銀行と締結した「サステナビリティ・リンク・ローン」とは?
更新日:2023年10月2日
令和4年3月31日、株式会社恒電社と株式会社埼玉りそな銀行は、共に持続可能な社会の実現を目指す取組の一環として、「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」契約を締結しました。
※参考記事:埼玉りそな銀行と「サステナビリティ・リンク・ローン」 契約締結
「産官学金労」の全てが連携して大きな社会課題に取り組まなければならない」と語るのは、埼玉りそな銀行サステナビリティ推進室長園田孝文氏。
SLLの締結に至った背景や実務に苦労した点、そして埼玉りそな銀行のSXに対する取り組みなどについて、園田氏・弊社恒石・廣瀬にインタビューしました。
埼玉りそな銀行 サステナビリティ推進室
━━━まず、園田様が室長を務めるサステナビリティ推進室について教えてください。
サステナビリティ推進室は、2022年4月に改組された組織です。
最初は「CSR推進室」という名称でした。その名称の通り、社会貢献活動の実施を主な目的として設置したことが始まりです。
その後、CSR推進室から「SDGs推進室」へと改組しました。
りそなグループは、2018年に「2030年SDGs達成に向けたコミットメント」を策定しておりまして、地域・少子高齢化・環境・人権をマテリアリティ(重点課題)として定め、グループ全体で様々な取り組みを推進しております。
埼玉りそな銀行では、その統括部署としての役割をSDGs推進室が担っておりました。
そして、今年度4月からサステナビリティ推進室に改組しております。
SDGsは2030年までの目標ですが、さらに30年40年先を見据えて取り組みをしようという想いから、「サステナビリティ」という考えを様々な形で実現させる「サステナビリティ推進室」が設立されました。
具体的には、地域・お客様・自社の「SX」の実現に向けて、本部の各部署などとも連携しながら横断的なプロジェクトを推進しております。
SX:サスティナビリティ・トランスフォーメーション
りそなグループでは、「持続可能な社会に向けた世の中の変化を先取りし、企業のビジネスモデルや個人のライフスタイルを自ら変化させていくこと」と整理しています。
りそなグループの目指す姿
━━━埼玉りそな銀行での環境に対する取り組みの「ハブ的」な役割を担っていらっしゃるということですね。実際に、各支店との連携・施策もあるのでしょうか?
金融商品・サービスを通じたSXへの取り組みだけではなく、“地域×SDGs”を掲げ、地域の困りごと解決に向けて支店と連携して取り組んでいます。
直近ですと、上尾市で子育て世帯を支援する認定NPO法人様が主催する子ども服交歓会に、埼玉りそな銀行の上尾ブロック6拠点で参加をしました。
店頭に子供服の回収箱を設置し、お客さまと弊社の従業員から子供服を募り、当日の運営面で上尾ブロックのメンバーが参画しました。
以前よりNPO法人様は地道な活動をしていたのですが、その取り組みがなかなか知られていない部分もありましたが、当社の取り組みをメディアに取り上げていただき、その記事を見た上尾市行政や商工会議所等の関係者が当日参加して認知度が高まったりと、副次的な効果も見受けられましたね。
そのような各支店での取り組みについても、連携を取りながら支援をしております。
サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは?
━━━具体的取り組みの一つとして、SLLにも注目度が高まっていると思います。まず、SLLの概要について簡単に教えていただけますでしょうか?
サステナビリティ・リンク・ローンの概要は、企業のSDGsやESGなどのサステナブルな活動に対して、第三者による公正な審査を経て実行される融資形態です。
サステナビリティ戦略に整合した目標であるサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(以下「SPTs」)の達成度合いに応じて、金利等の融資条件が連動する借入手法を指します。
2019年にサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の国際指針が定められて、ファイナンスとしてのスキームが確立されてきたことで、注目度が上がってきております。
SPTsは非常に野心的な目標である必要があり、経営戦略と整合していないといけないという条件が前提としてあります。
かつ、SPTsは外部機関の認証を取得する必要があり、客観的に評価されるローンということで数あるサステナビリティファイナンスの中でも非常にハードルが高いファイナンス手法であると我々は認識しています。
━━━埼玉りそな銀行の中でSLLの注目度が高まってきたタイミングを教えてください。
グループとして「トランジション・ファイナンス10兆円」という目標を掲げた中で、具体的なソリューションの一つとして、2年ほど前から注目度が上がってきました。
RE100に加盟している上場企業や大手企業での締結が進んでいる印象があります。
━━━弊社が埼玉県内の中小企業で初めてSLLを締結したとのことでしたが、中小企業での浸透具合は率直にいかがでしょうか?
率直に言うと、先ほど申し上げた通り、非常にハードルが高いファイナンス手法ですので、まだ途上段階といった状況です。
恒電社様が中小企業第1号として取り組んで下さったのは、フロントランナーとしても非常にありがたいです。
元々恒電社様にはその素地があって、経営戦略・事業戦略そのものが、環境・SDGsへの取り組みに直結していますので、我々がお手伝いさせていただいたくにあたり、スムーズに進めさせていただくことができたと思います。
━━━現場から見て、実際にSLLの締結に至るまでに苦労した点を教えてください。
廣瀬:今回目標を2段階(Stage1.2)に分けて策定したのですが、埼玉県のSDGsパートナーに掲げている内容と近しいので、2030年時点でのゴールを設定することに大きな苦労は感じませんでした。
一番の苦労は、最終的に2030年までの目標に対して、どのように成長曲線を描いていくのか?という“過程”の部分ですね。
世の中に再生可能エネルギーが増えてきている中で、「直線的に導入量が増えていくのか」、または「2030年に近づくにつれて指数関数的に導入量が増えていくのか」などの“社会変容シナリオ”を描くことに苦労しました。
サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の魅力と未来
━━━経営者目線で、SLLに最も魅力を感じた点を教えてください。
恒石:目標を社会に発信し、その目標に責任をもつことのインセンティブがある点ですかね。
埼玉県SDGsパートナーで掲げた再エネ導入目標は、仮に達成できなかったとしても結局「達成できなかったね」で終わってしまう可能性があります。
ただSLLでは、第三者機関に認証された野心的な目標を社会に発信します。
達成状況によって、金融面での優遇措置もあるというご褒美をいただける部分もありますが、そういった金融面のインセンティブも含めて、再エネ導入をさらに加速させていくための非常に良いきっかけになったと感じています。
また経営層だけでなく、全社員でモチベーションを共有できるという点も大きかったと思いますね。
━━━今後恒電社に期待する点を教えてください。
僭越ではありますが回答させて頂きます。
2021年度下期を通して、当社ではお客さま向けのSXヒアリングを行い、約16,000社のお客さまとSXに向けた取組み状況の共有を行いました。
その結果、中堅・中小企業においては事業規模に応じてSXの取り組み状況に差があることや(事業規模が小さくなるにつれて取り組みが遅い傾向)、全体の約6割のお客さまが「社内での理解不足や意識浸透」「具体的に何をすべきか分からない」といった課題を抱えていることが分かりました。
このようなお客様へ、いかにSXに取り組んで頂けるかを日々考えております。
繰り返しになりますが、恒電社様には、まさにフロントランナーとして、埼玉県の地域経済を支える牽引役となっていただけると非常にありがたいと思いますし、我々もお力になれるところがありましたら、全面的にサポートさせて頂きたいと思っております。
野心的な目線を掲げて、それを達成していっているロールモデル企業がいるということは、我々としても非常に助かっております。
━━━ちなみに、さきほどのアンケート結果にもありましたが、民間の力だけでSXを推進していくことの難しさはありますか?
正直そのように感じております。
やはり「官」の力というのは、補助金支援等、資金支援の観点から見ても必要だと思います。
また、官だけではなく「産官学金労」の全てが連携して大きな社会課題に取り組まないと、単体の企業や業界だけの努力では、もはや太刀打ちできない分野だと考えています。
いかに協力関係を築いていくかが重要なポイントだと考えていますので、そういった観点でも引き続き恒電社様のお力をお借りできれば幸いです。
━━━本日はありがとうございました。
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