【解説】なぜ電気代が高騰しているのかを解説します。

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要約

電気料金高騰の主な要因:電気料金の高騰は、主に化石燃料価格の上昇によるものです。特に、石炭や液化天然ガス(LNG)の価格は、2021年の標準価格の約4~7倍に急騰。この背景には、カーボンニュートラル政策の影響で化石燃料の供給が減少していること、ウクライナ侵攻によるエネルギー市場の混乱、OPECプラスの減産決定などがあります。日本は燃料の約2割をロシアから輸入しており、国際的な制裁の影響を受けやすい構造になっていることも、電気料金の上昇を加速させています。

電力供給の課題と構造的な問題:日本の電力供給には二つの大きな課題があります。一つ目は、原子力発電の稼働率が5.9%にとどまっているため、市場から高騰した電力を購入せざるを得ないこと。二つ目は、老朽化した火力発電所の更新が進まないこと。脱炭素の流れの中で、火力発電に投資すると座礁資産化するリスクが高いため、大規模な設備更新が難しくなっています。さらに、気候変動の影響で電力需要が不安定になり、特に猛暑や寒波による需要増加が火力発電への依存を強めてしまうという構造的な問題があります。

今後の電気料金と電力会社の対応:電気料金の高騰は短期的に収まる見込みは低い。化石燃料の供給量が減少する一方、再生可能エネルギーの普及には時間がかかるため、電力会社は送電網の改革や新たな発電技術への投資を加速させる必要があります。特に、火力発電の効率化や、再生可能エネルギーの安定供給を支えるシステムの整備が重要です。2024年4月からの電力総電網改革により、安全・安心・安価な電力供給の実現が期待されるが、その成果次第で日本の電力市場の方向性が大きく変わる可能性があります。

出演者紹介

狩野晶彦
株式会社エネリード 代表取締役

狩野晶彦

電設資材卸会社勤務20年・家電業界専門誌リックの元専任講師・パナソニック客員講師。「ネット・ゼロ・エネルギーハウスとは」「知らないと損する電気料金セミナー」など、電力会社・大手企業・特約代理店等に向けて年間100 回以上の講演を行う。

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

電気料金の実態

———ここからは、電気料金が今非常に高騰していると思うのですが、具体的にどうして電気料金が高騰しているのかという部分を狩野さんに教えていただきたいと思っています。

———前回の話では、電気を作る一次エネルギーである石炭、石油、LNGが高騰しているという話がありましたが、まず具体的にどのくらい高騰しているのかという数字的なイメージを持つことが重要かと思いますので、そのあたりについて教えていただけますか。

はい。まず、各電力エリアによって基準となる価格、つまり石油・石炭・ガスをどの程度の価格で購入しているのかという基準があり、前にもお話しましたが、通常はこれ以下の価格で購入しています。

それが例えば4月のこの右側の数字をご覧いただくと、ことごとく非常に高い金額になっています。

では、東京電力エナジーパートナーの関東エリアの価格を細かく見てみましょう。

1年前は54,000円という燃料価格。基準価格(44,200円)よりも1万円近く高い価格になっています。それが今年の2月には最高値を記録し、何と10万円を超えています。私はこんな価格を見たことがありません。

実際に、2021年の4月を遡って見てみると、25,600円です。本来これくらいが標準的な価格です。それが1年後には倍になり、さらに2年後には10万円を超えるという状況になってしまいました。

この要因はいくつか考えられますが、1つは東日本大震災以降、原子力発電が事実上停止していること。現在も5.9%程度しか稼働していません。

関連記事:【解説】原発再稼働で電気代はいくら下がるのか?

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電気料金高騰の理由

———原発が止まっていることによって電気料金が高騰する具体的な理由とはどういった点でしょうか。

原子力発電所を持つ電力会社も、市場から電力を購入せざるを得ません。その市場価格自体が高騰しているためです。

———化石燃料、火力発電への依存度が高まり、その原料である石炭や石油などの価格が上昇していると。

依存度が高まっているというよりも、化石燃料自体の価格が上がってしまっていることのほうが大きな要因です。

———具体的に、なぜ燃料価格が上がっているのかについても教えていただけますか。

単純に、カーボンニュートラルの取り組みが全世界で進められていることが背景にあります。各国が目標を立て、それに向かって脱炭素を進め、化石燃料の使用を減らす。

そうすると、短期的には化石燃料の価格が上昇するというのは、IEA(国際エネルギー機関)のデータでも示されている通りで、2040年に向けて化石燃料はさらに上がると予測されています。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻によってガス価格が上昇しています。2016年を100とすると、現在の化石燃料価格は、石炭が7倍、石油が3.7倍、液化天然ガスが4.5倍に上昇しています。

今後さらに価格が上昇する可能性が高いのが液化天然ガスです。

———それはどういった理由ですか。

例えば、100万kWの電力を作る際、石炭で作るのと液化天然ガスで作るのでは、CO2の排出量が液化天然ガスのほうが半分になります。そのため、世界的に石炭の使用を減らし、よりクリーンな化石燃料として天然ガスや液化天然ガスへのシフトが進んでいます。

それを象徴するのが中国の動きです。

中国も2060年までにカーボンニュートラルを達成するため、短期的には石炭からガスへシフトし、中期的には再生可能エネルギーを10倍、20倍に増やす。長期的には次世代型の電源を開発していくという計画は、日本や世界の流れと同じです。

実際に、中国はこの数年間で、日本が2020年まで世界最大だった液化天然ガスの輸入量を抜き、現在は中国がトップになっています。このことからも、世界のエネルギー構成が大きく変わってきているのがわかります。

あまり知られていませんが、日本はロシアから石炭・石油・天然ガス、特に液化天然ガスを約2割程度輸入しています。そのため、国際的な制裁の影響だけでなく、国同士の駆け引きも非常に大きな要因となっています。

———経済成長や国民の生活に直結する分野なので、外交問題や政策とも密接に関わっていますね。

昨年、オーストラリアがエネルギー政策を転換したことで、日本が現在最も多く輸入している液化天然ガスの供給に影響が出る可能性があります。

また、昨年10月にはOPECプラスが原油の減産を決定しました。これらの動きは、日本にとってエネルギー供給のリスクを高める要因となり、今後さらに石油依存からの脱却が求められると考えられます。

———いろいろな要因があると思いますが、需要に対して供給が追いついていないのではないかという印象を持っています。これは脱炭素化に向けた石油への投資の減少やウクライナ情勢の影響もありますが、供給側の不足と相対的に見た需要の増加が燃料価格の高騰を引き起こしているという認識で間違いないでしょうか。

間違いありません。ただ、日本の電力問題において非常に重要な点は、1つは燃料価格の高騰、もう1つは避けられない構造的な問題です。

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日本の課題

当然、脱炭素のために再生可能エネルギーを今後増やしていく必要があります。これは日本の課題です。

しかし、現在の電力供給を安定させ、停電を防ぐための発電所が絶対的に不足しています。原子力発電の稼働も不安定な要素を完全には拭いきれません。

もう一つの課題は、火力発電所の老朽化です。単純に老朽化した設備を新しいものに置き換えれば解決するという話ではないのです。

電力会社も当然、新しい、より温室効果ガスの少ない火力発電への投資を進めたいと考えています。

しかし、所詮火力は火力。温室効果ガスを排出するという事実があるため、大規模な投資が難しいのです。

———今投資をしたとしても、火力発電のニーズが低下したときに座礁資産となる可能性が高く、踏み込んだ投資ができないということですね。

東京電力と中部電力が共同で、火力発電をメインとするJERAという会社を設立し、電力の安定供給を進めています。私も非常に期待していますが、そこにはより温室効果ガスの少ない新技術を導入する必要があります。加えて、再生可能エネルギーの導入も同時に加速していかなければなりません。

しかし、単純な話としてすぐに解決できる問題ではありません。この燃料費の問題は、まだしばらく続くでしょう。

また、市場がどのように変化するかも、今後注目すべきテーマだと考えています。

電気料金高騰はいつまで続く?

———最後に、今お話しいただいた要因によって電気料金が高騰しているという背景がある中で、この電気料金の高騰はどのくらい続くとお考えでしょうか。

まず、今後燃料費が下がるのかというと、まだまだ厳しい状況が続くと思います。

その理由は、カーボンニュートラルに向けて、世界中が石油・石炭・ガスへの依存度を減らそうとしていることです。結果として、化石燃料の供給量が減り、価格が高騰しやすくなります。

———供給が少なくなってくるからですね。

はい。まず、これが第一の要因として挙げられます。そして、日本は再生可能エネルギーをさらに増やさなければなりませんが、現実問題として、いまだに化石燃料に頼らざるを得ない状況です。加えて、もう一つ心配なのが気候変動です。

電力業界では「H1」という言葉があります。これは「10年に一度の猛暑」や「10年に一度の寒波」のことを指します。このような異常気象によって、暖房や冷房の需要が急増します。

これまでは「10年に一度」のペースで起こると考えられていましたが、気候変動の影響で、今後は毎年のように発生する可能性もあります。

その度に、夏は極端に暑く、冬は極端に寒くなり、電力需要が追いつかない状況が続くかもしれません。結果として、火力発電がフル稼働する必要が出てきて、燃料価格が高騰しても購入せざるを得ないという状況が生まれる可能性があります。

———供給が減っている中で、さらに需要が増えれば、バランスが崩れてしまうということですね。

電力会社に期待すること

———東京電力をはじめとする日本の各電力会社に対して、電気料金を下げるために期待することがあれば教えてください。

これは、4月から始まった電力の総電網改革です。

各電力会社はこの4月から新たな取り組みをスタートしましたが、そこには多くの課題があります。

その課題をいち早く克服することで、私たちはより「安全」「安心」、そして「安価」な電気を手に入れることができるでしょう。

これは、日本にとって避けて通れない重要なテーマだと思っています。

———「安全・安心・安価」は良いキーワードですね。まさに、日本にとって最も重要な3つの要素だと感じます。今日はありがとうございました。

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記事を書いた人

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴を持つ。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)、2025年に第二種電気工事士資格を取得。

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