非化石証書とは?環境価値を売買できる仕組みを解説
更新日:2024年11月27日
目次
【要約】非化石証書とは、再生可能エネルギーや原子力由来の「環境価値」を電気の価値と切り離し、取引市場で売買する仕組み
非化石証書の仕組みと背景:非化石証書は、再生可能エネルギーや原子力由来の「環境価値」を電気の価値と切り離し、取引市場で売買する仕組みです。誕生の背景には、環境問題認識の拡大、再エネ普及の必要性、そして電力自由化による競争促進があると狩野氏は語ります。2017年に「非化石価値取引市場」が設立され、2021年には「再エネ価値取引市場」へ進化しています。
非化石証書の種類と活用法:証書の種類や調達方法は多様化し、主な証書の種類には、再エネ指定が可能なFIT非化石証書、卒FIT電源などを含む非FIT非化石証書(再エネ指定あり)、原子力対応の非FIT非化石証書(再エネ指定なし)があります。調達方法は電力会社の再エネプラン、卸市場からの直接購入、仲介業者経由などがあり、中小企業には自家発電設備の導入、大企業にはPPA契約がおすすめされています。
今後の課題と展望:非化石証書に対する需要が高まる一方で供給不足や価格上昇のリスクがあり、非化石電源比率の向上が急務となっています。再エネ普及や脱炭素化を進めるには、自家発電やPPAの活用が重要で、特にRE100やSBTなど国際基準への対応が求められており、市場動向のスピードに合わせ、最新の情報を反映した取り組みが不可欠です。
非化石証書を解説
地球環境の保護とエネルギーの持続可能性に貢献する取り組みの一つとして注目を集める「非化石証書」。
今回は、そんな非化石証書に焦点を当て、電力市場において「電気の価値」と「環境の価値」をどのように分けるのか詳しく解説しています。
そもそも、なぜ非化石由来の電力であることを証明する必要があるのか、非化石由来の電気を使うことが企業や個人にとってどのようなメリットがあるのか、今回も株式会社エネリード 狩野晶彦氏に具体的な例と共に説明していただきます。
※本稿はこちらの動画を記事化した内容となります。
出演者紹介
非化石証書とは?
―――「非化石証書」の概念については、「非化石」と「証書」という言葉を分けて考えてみると、より理解しやすいかもしれないですね。
その通りです。そもそも、電気自体は化石燃料とは直接関係がありません。火力発電、再生可能エネルギー、原子力、どの方法で発電された電気も、コンセントから出てくるのは同じ電気です。
しかし「非化石」、つまり再生可能エネルギーや原子力といった電源には、温室効果ガスを排出しないという“特別な価値”があります。
化石由来と非化石の電源
―――まず、冒頭で狩野さんから「電気としての価値」と「環境としての価値」についてお話がありました。
簡単に言えば、コンセントから出てくる電気が何から作られているのかなんて、誰にも分からないですよね。電気としての価値は、何で作っても同じです。
例えば、このパソコンを充電する場合もそうですし、明かりをつける場合も。どちらも同じ電気ですが、再生可能エネルギーや原子力で発電した電気は、発電時に温室効果ガスを排出しないという特別な価値があります。
そこで、その価値を切り離して取引しようとしたのが「非化石証書」です。
「明かりをつける」「何かを充電する」という電気としての価値と、「それが何によって発電されているのか」という環境面の価値を分離し、この環境価値だけを取引する仕組みが非化石証書の考え方です。
―――そもそもですが、化石由来の電源と非化石由来の電源には、それぞれどのような種類があるのでしょうか?
簡単に言えば、石油、石炭、ガスといったものが化石由来です。
一方で「非化石」と言われるものには、太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱といった再生可能エネルギーがあります。さらに、原子力も非化石の電源に含まれます。
―――現在では、発電する電源を化石由来と非化石由来に分けて考えることが当たり前になりつつありますよね。ただ、その背景、つまりなぜ化石由来と非化石由来を分けるようになったのかについても、ぜひ伺いたいと思います。
「非化石」概念の登場
―――非化石という概念や考え方が生まれてきた背景や理由は、どのようなものなのでしょうか?
これには三つの要因があると思います。
一つ目は、環境問題が広く認識されるようになったこと。二つ目は、再生可能エネルギーの普及促進です。そして三つ目が、電力自由化が絡んでいる点です。ここは非常に大きなポイントです。
―――一つ目の「環境問題」という点から詳しく教えてください。
現在では「カーボンニュートラル」という言葉が一般的になり、温対法(温室効果ガス対策推進法)などが法律として整備されました。ただし、これらが法律化されたのは、実はつい4年ほど前のことです。しかし背景をさらにさかのぼると、16年前にまで起源があるのです。
温室効果ガス対策推進法
温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算出し、国へ報告することを義務付けた法律
―――結構前のことですね。
実は、2008年に開催された洞爺湖サミットの際に、現在の「カーボンニュートラル」、具体的には、2050年に向けて温室効果ガスをニュートラルにするという目標の前段階として、「2050年までに60〜80%削減する」と掲げられました。いわゆる「福田ビジョン」です。
この目標を達成するための一つの手段として、「2030年までに太陽光発電を40倍に増やす」という目標も設定されました。
―――温室効果ガスを削減するという概念が生まれたことで、電源を「化石由来のもの」と「非化石由来のもの」に分けて考える流れができたというのが、一つ目の背景ということですね。
―――先ほど、福田ビジョンで「太陽光を爆発的に普及させましょう」という方針がありましたが、これと再エネ普及にはどのような関係があるのでしょうか?
2008年の洞爺湖サミット以前に遡ると、有名なのはCOP会議です。特に、COP3で採択された「京都議定書」は広く知られている言葉だと思います。日本も1990年代に向けて温室効果ガスを削減する目標を掲げました。
では、どのように削減するのか。これに対し、業界全体で省エネ法やさまざまな法律が整備され、その中で一つ生まれたのが「RPS法」です。
これも聞き慣れない言葉かもしれませんが、これ大手電力さん、東京電力とか北海道電力とか。そういうところが売る電気、また供給する電気の一部を新エネルギー、つまり再生可能エネルギーにしなさいね。というような目標を作ったんです。
締約国会議(COP:Conference of the Parties)
多くの国際条約の中で、加盟国が物事を決定するために設置されている最高決定機関。国連気候変動枠組条約締約国会議として知られる。
RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)
電気事業者に対し、供給する電気の一定割合以上を新エネルギーから発電される電気とすることを義務づけることにより、新エネルギーの普及を図る制度。
その次に作ったのが「高度化法(エネルギー供給構造高度化法)」。
2009年に施行されたのが、先ほどの福田ビジョンの「太陽光を40倍にする」という目標を強く反映した法律です。
―――福田ビジョンが2008年に策定され、高度化法が翌2009年に施行されたのですね。
そうです。そして、さらに有名なのがFIT法(固定価格買取制度)です。この法律は、多くの方がご存じの通り、太陽光発電が大きく普及するきっかけとなったもので、2012年に施行されました。
―――なるほど。福田ビジョンで掲げられた「2050年までに温室効果ガスを60〜80%削減する」という目標や、太陽光発電の普及促進のために、法律が整備されてきたということですね。
―――三つ目の「電力自由化」についてですが、非化石と電力自由化の関係がいまひとつ理解しきれていないのですが、これはどのような関係なのでしょうか?
電力自由化は、あらゆる産業が自由化され始めた1980年代から1990年代にかけての流れの一環として始まりました。電力分野では、2000年に電気事業法を改正し、徐々に自由化が進められました。
そして、2016年4月に小売りが全面自由化され、現在では700を超える電力会社が存在しています。
―――700社もあるのですね。それはすごい数です。
これだけ多くの事業者がいる中で、再生可能エネルギーを含む電力をどのように増やすかを考える必要が出てきました。そのため、再エネを含む電力の供給を義務化する仕組みが必要になったわけです。
石炭、石油、ガスといった化石燃料の電源ばかりではなく、再生可能エネルギーをいかに促進するかが重要になっています。
―――環境問題への対策や再生可能エネルギーの促進に向けた法整備が進む中で、電力自由化が加わり、700近くの電力会社に対して環境問題への取り組みや再エネ普及の活動が求められるようになったのですね。
その通りです。その中で、FIT法は電源を作るための仕組みを支え、高度化法は売電を再エネ中心にし、再生可能エネルギーの電源を増やす役割を果たしているわけです。
高度化法(エネルギー供給構造高度化法)
―――現在、化石と非化石の電源を分けるところまではお話ししていただきましたが、その次に出てくる「非化石証書」という言葉が気になるところです。非化石証書という考え方や概念が生まれた背景には、どのようなものがあるのでしょうか?
これには、やはり高度化法が関係しています。
そもそも高度化法とは何かというと、再生可能エネルギーを促進するために制定された法律です。
この法律では、小売電気事業者、つまり電気を売る事業者(大手電力会社や新電力を含むすべての事業者)が扱う電源の44%以上を非化石化することを義務づけています。これは、かなり高い目標を掲げた法律です。
―――電力自由化によって、多くの新電力会社が参入してきたと思います。その中には、自社で電源を持たない会社もありますが、そういった会社も含めて、44%を非化石化する必要があるということですか?
そうなんです。大手電力会社は問題ありません。非化石電源として水力や原子力を保有していますから。
ただ、自社で電源を持たない会社は、卸市場で電力を取引する必要があり、取引される電力がどのような電源から供給されたものかを特定できない場合があります。
自社で非化石電源を持たない新電力会社にとっては、「44%以上の電源を非化石化する」という目標に対応するため、国が(非化石証書によって)市場を作り出したことが、重要な第一歩だったと思います。
―――全て理解できました。これが、先ほど冒頭にあった「電気としての価値」と「環境としての価値」を切り離して考えるきっかけとなったのですね。
その通りです。
電気は卸市場で購入し、同様に市場から非化石の価値を購入する。それが「非化石証書」です。
その最初にできた市場が、「非化石価値取引市場」です。
―――この市場が設立されたのは、2017年2月のことですね。
市場が設立され、これによって取引が活性化されると期待されました。しかし、様々な需要家から多くの意見や要望が寄せられました。
一つ目の意見としては、「非化石の価値が高すぎる。もっと値段を下げてほしい」というものでした。
二つ目は、「もっと自由に取引できないか。直接購入することはできないのか」という意見。そして三つ目は、「非化石といっても、何の電源なのか。具体的に教えてほしい」という要望でした。
非化石には、太陽光、水力、原子力など、さまざまな種類があります。「この証書は太陽光なのか、水力なのか、それとも原子力なのか」といった具体的な情報を求める声が多く寄せられました。
こうした声を受けて、市場が再び見直されることとなり、2021年11月に「再エネ価値取引市場」が誕生しました。
―――ここで、新しい仕組みが生まれたわけですね。この市場の誕生により、自社で電源を持たない新電力会社でも、非化石の環境価値を直接購入できるようになったと。
需要家が環境価値を購入するメリット
―――今、電力会社側の視点から非化石市場を作ったり、非化石証書を購入する理由についてお話しいただきましたが、需要家側、つまり非化石証書を通じて環境価値を購入することには、どのようなメリットがあるのかについても触れておきたいと思います。
まず、「特定排出者(被エネルギー起源の二酸化炭素排出量が3000t-CO2以上の事業者)」と言われる大手企業などに関してです。
これらの企業は、温対法(温室効果ガス対策推進法)の改正により、自社がどれだけ温室効果ガスを排出しているのかが、国民全員に公開される仕組みになっています。
特定排出者として、1位から50位以内に名前が入るような状況は、企業として避けたいところですよね。そこで非化石証書を購入することで、電気に関連する温室効果ガス排出量を減らすことができます。購入した証書の分だけ排出量削減として計上できるのです。
二つ目は、最近注目されている国際的なイニシアチブへの対応です。たとえば、RE100やSBTなどが挙げられます。そうしたイニシアチブに非化石証書を活用することが可能です。
そして三つ目は、企業イメージの向上です。
―――「脱炭素に取り組んでいる」や「SDGsに貢献している」といった評価が得られるということですね。7番目の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンなエネルギーを」というSDGsの目標にも合致していますね。
それらは学校教育でも取り上げられていますからね。
最近では、13番目の「気候変動に具体的な対策を」が、特に重要視されているようです。COP会議を見ても、このテーマが頻繁に取り上げられていることが分かります。
―――現時点では、非化石証書を購入することによる直接的な経済的メリットがあるというよりは、企業イメージの向上や、脱炭素への取り組みの一環としてのメリットが主な理由で、購入や取引が行われているということですね。
その通りです。これが、現状の実情だと言えます。
また資産やお金の面で言えば、非化石証書はESG投資にも繋がると考えられます。
非化石証書の種類
―――ここからもう少し深掘りしてお伺いしたいのですが、先ほど「どの電源で作られたのかを知りたい」という話がありましたよね。非化石証書にもいくつか種類があると思うのですが、まずはどのような種類があるのかを教えていただけますか?
これを分かりやすくご説明すると、大きく三つの種類に分けられますが、大きく分類すると二つです。一つ目は「FIT非化石証書」。もう一つが「非FIT非化石証書」です。
FIT非化石証書
まず「FIT非化石証書」の中には「再エネ指定あり」というものがあります。
この「FIT非化石証書」は、発電源が太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱のいずれであるかが明確に分かるものです。
「再エネ指定あり」のFIT非化石証書では、どの発電源から作られたものかを指定することができます。
―――たとえば、購入する側は「これは風力で作られた環境価値だ」と理解した上で購入することが可能ということですか。
その通りです。電力会社も「これは太陽光由来です」「これは水力由来です」と明記することができます。
非FIT非化石証書(再エネ指定あり)
二つ目は、「非FIT非化石証書 再エネ指定あり」です。「非FIT」ですから、FIT(固定価格買取制度)の対象ではないという意味です。
つまり、国民負担が伴うFIT電気ではないということですね。
―――非FIT非化石証書というと、たとえばどういったものが該当しますか?
ご家庭の場合、10年のFITの買取期間が終了した、いわゆる「卒FIT」の太陽光発電が該当します。企業の場合は、20年経過したものですね。
つまり「非FIT非化石証書」とは、FIT電源ではない再生可能エネルギーを指します。それらを証書化したものが「非FIT非化石証書 再エネ指定あり」です。たとえば、大型水力発電や先ほどお話しした卒FIT電源などがこれに該当します。
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
三つ目は、同じ「非FIT非化石証書」ですが、「再エネ指定なし」のものです。簡単に説明すると、原子力発電が該当します。
温室効果ガスの排出量がゼロであるため、「非化石」として扱われるわけです。
―――「FIT非化石証書(再エネ指定あり)」について、この証書では、太陽光、風力、水力など、発電源を選べるわけですが、購入者がその中から特定の発電源を選ぶ理由はどこにあるのでしょうか?たとえば「太陽光ではなく風力を選ぶ理由」や、逆に「風力ではなく太陽光を選ぶ理由」など、購入者のインセンティブや動機が気になるところです。
そこには「追加性(新たな再エネ設備に対する投資を促す効果)」という考え方が関係してきます。
少し難しい話になりますが、たとえばPPA(電力購入契約)の中で、特定の発電源に投資し、その電気を購入する仕組みが含まれている場合があります。だから、「これは投資して追加した私の持っている電源です」という意味で活用される非化石証書もあるわけですね。
また、「生のグリーンの電気が欲しい」という需要もあります。例えば、「そこまで規模は大きくしないけれども、太陽光由来の電気を選びたい」というケースですね。
生グリーン電力
発電所から需要家に直接送るグリーン電力
―――たとえば、工場運営において95%を屋根に設置した太陽光発電で賄っている企業が、残りの5%をどう再エネ100%にするかを考える場合、その5%を太陽光由来の電力で補填することで「100%太陽光発電」とする選択をしているケースもありそうですね。
―――その話を聞いて思ったのですが、FITが2012年に施行され、そこから再エネ市場が盛り上がってきましたが、企業のFIT期間が20年であることを考えると、2030年頃にはこの領域がさらに盛り上がりを見せる可能性がありますね。
当然、増えていくと思います。
さらに、もう一つの流れとして、現在のFIT金額が低いため、最初からFITを利用しない選択をする事業者も増えています。
―――そうですよね。これからはむしろ、そのような選択肢が主流になっていくでしょうね。
非化石証書の調達方法
―――非化石証書には三つの種類があるということですが、これをどうやって購入すれば良いのでしょうか?
つまり、調達方法についてですよね。簡単に言えば、電力会社が提供しているメニューを購入する形になります。
たとえば、東京電力が新しく提供している「サンライトプレミアム」や「アクアプレミアム」というメニューがあります。
このようなメニューを通じて購入できます。これらのプランには、企業が抱えるさまざまな目的に対応する特徴が含まれています。たとえば、再エネの追加性を重視したプラン、CO2フリー電力の提供、生グリーン対応、RE100対応、CDP対策、温対法に活用可能なものなどです。
さらに、パリ協定に基づくSBT(科学的根拠に基づく目標設定)にも活用できるプランなど、企業のニーズに応じて選びやすい仕組みが整っています。
―――そもそも、電力会社と契約を結んでしまえば、電気とセットで環境価値を購入することができるのですね。これは、確かに一番簡単で、分かりやすい方法ですね。
二つ目の方法は、企業自体が直接市場から環境価値を購入するケースです。
―――つまり、電気を購入する電力会社とセットではなく、環境価値だけを市場から別途購入するということですね。
ただし、この方法を利用するには、自身が日本卸電力取引所(JEPX)の会員になる必要があります。
大手企業であれば対応できるかもしれませんが、中小企業だと少し手間がかかりそうで、厳しい面もありますよね。そういった場合に三つ目の方法として、仲介業者から購入するという選択肢があります。
―――仲介業者さんもいるんですね。
ええ、新電力会社が仲介業者を兼ねているケースもあります。
そのため、こういった業者を通じて、多少手数料を払ってでも非化石証書を購入する方が便利だと考える企業もあります。
―――ちなみに、二つ目の方法である需要家自身が購入する場合、日本卸電力取引所(JEPX)の会員になる必要があるというお話でしたが、費用の面でも結構負担がかかるのですか?
JEPXの会員になるには、入会金が11万円かかります。さらに、年会費も必要です。(2024年3月時点)
それに加え、証書1通につき0.01円の手数料がかかるなど、小さなコストが積み重なります。
―――ちょくちょく費用がかかるわけですね。
そうです。ただ、その代わりに、自分が欲しい分だけ、自由に購入することが可能です。
そういった意味では、利便性の面では良いものの、中小企業にとっては仲介業者を通じて購入する方が手間がかからず、現実的だと言えますよね。
―――または、電力会社のメニューとセットで電力を購入する形にするのも、分かりやすい方法です。
非化石証書取引の実態
―――お話を伺う中で、今後、卒FITや脱炭素の国際的な流れ、たとえばSBTの動きも含め、非化石電源や非化石証書の価値や取引量はどんどん増えていくのではないかと感じました。
―――ところで、現時点での非化石証書の取引状況について、どのくらいの規模なのでしょうか?
非化石証書の取引量は右肩上がりで増加しています。
数字を挙げてもピンとこないかもしれませんが、たとえば2023年8月に行われたオークションでは、1年前の2022年8月と比べて取引量が2倍に増えました。
これには、RE100やREアクションに加盟する企業が増えている影響もあります。また、これらに加盟していなくても、親会社やサプライヤーが脱炭素の取り組みを進める中で、必然的に中小企業も対応せざるを得ない状況が生まれています。
その結果として、購入する電力をクリーンなものにしたいというニーズが高まり、非化石証書の人気もますます上がっていくと考えられます。
―――非化石証書の人気が高まっていくと考えると、発電される電気の量と非化石証書の量は一対一の関係にあるため、供給される電気が減れば、それに紐づく環境価値も減少するわけですよね。そうなると、非化石証書や非化石価値がどんどん足りなくなっていくような気がします。
需要は高まっているのに、電源が増えなければ、当然ながら非化石証書の価格が上昇するか、供給が不足する状況になると思います。たとえば、東京電力の現状を見ると、それが分かります。
東京電力は電源を供給していますが、その内訳を見ると、石炭、液化天然ガス、石油、原子力など、さまざまな電源があります。現在、原子力や石油はゼロですが、全体の73%が火力発電に依存しています。
その中で、非化石証書があり、さらに再エネ指定ができるもの、つまり太陽光や水力などを指定できるのは、全体のわずか9%に過ぎません。また、再エネ指定ができないもの(原子力を含む非化石電源)は11%です。
これらを合わせても、全体の20%しか非化石電源に該当しません。20%という割合を多いと見るか少ないと見るかですが、私は圧倒的に少ないと感じます。
―――非化石価値は目に見えないものなので、増幅されるように思いがちですが、実際には電源そのものに依存しているということですね。他の電力会社では、どのような状況なのでしょうか?
非化石証書の価値を付与できない電源が8割以上を占めています。さらに、非化石証書で再エネ指定が可能な電源は、2割を超える例はほとんどありません。再エネ指定なしの非化石証書も、同じような状況にあります。
―――繰り返しになりますが、これは各電力会社の電源構成比において化石燃料の割合が依然として高いことが主な要因と言えそうですね。
非化石電源の調達方法
これから需要家がどのように非化石の電源を調達していくかについても、把握しておく必要があります。方法は大きく四つあります。
一つ目は、非化石証書のみを調達する方法です。ただし、この方法は市場に依存するため、課題もあります。
―――結局、市場における非化石電源の供給量が増えない限り、非化石証書の数も限られてしまいますもんね。
その結果、購入できる時もあれば、購入できない時も出てくるわけです。さらに、取引量に制限がかかる場合もありますし、やはり、非化石証書が少なくなると、1kWhあたりの証書の価値も上がってしまいます。
二つ目の方法は、自らの土地に太陽光発電設備や再生可能エネルギーの発電設備を設置して、その電力を使用する、いわゆる「自家発電」です。
―――つまり、非化石電源を自ら所有するということですね。
その通りです。三つ目の方法は、再生可能エネルギーの発電事業者と提携することです。
具体的には、再生可能エネルギーに投資を行い、電力契約を結んでその電力を購入する方法です。この際、非化石証書も一緒に購入する形になります。これを「フィジカルPPA」と呼びます。
最後の四つ目は、電力会社が提供する再エネメニューをそのまま購入する方法です。
―――なるほど。少し答えにくい質問かもしれませんが、今後のおすすめはどれですか?
おすすめとしては、まず大手企業の場合、再エネ発電事業者と積極的に提携して、PPA(電力購入契約)を開発する方法です。
電力契約を15年から20年といった長期スパンで結ぶことで、安定した供給とコストの管理が可能になります。
一方で、中小企業の場合は、まず自家発電を検討するのがおすすめです。もし自社の屋根が空いているのであれば、そこに太陽光発電設備を設置する。例えば、工場の屋根などに太陽光を設置することで、購入する電力を減らすと同時に、経済的合理性と再エネのメリットを享受できます。
一方で、厳しいと感じるのは「バーチャルPPA」のように、非化石証書だけを購入する方法です。これは国際ルール上、どう評価されるのかが課題となっています。
バーチャルPPA
需要家の敷地の外に建設した再エネ発電所から環境価値のみを取引するもの
―――実際に使用している電力が化石燃料由来であるにもかかわらず、証書を購入するだけで解決しようとするのは、見方によっては「お金で解決している」と捉えられることがありますよね。
そういった背景から、RE100ではこの手法を認めていません。そのため、企業は電力メニューを選ぶ際に、どの電源に対応しているのかをしっかり確認する必要があります。
特に、RE100を採用している企業においては「古い電源は認めない」という厳しいルールが課されています。企業は単に証書を購入するだけでなく、再エネを増やすための具体的な努力が求められているということです。
―――自家発電を導入するか、再エネ事業者と直接契約を結びPPAで電力を供給してもらうか。この二つが、本質的かつ有効な方法と言えますね。
今日お話しさせていただいた内容ですが、この分野はものすごいスピードで変化しています。そのため、常に最新の情報を得ることが非常に重要だと思います。
―――再エネの普及に向けては、これらの取り組みが不可欠であり、切っても切り離せない関係にありますね。非常に分かりやすいご説明を、今日はありがとうございました。
記事を書いた人