【時事】電気料金が高騰|一方、九州電力が電気料金の値上げを回避、その理由とは?
更新日:2024年2月7日
昨年から続く燃料費高騰の影響により大手電力会社が値上げ申請を行う中、九州電力は2023年2月9日の記者会見で、現時点では値上げしないことを発表しました。それにはマスコミも関係者も驚きました。
その理由のひとつとして、佐賀県にある玄海原子力発電所4号機が国の審査を経て、2023年2月7日に原子炉を起動させたことがあります。徐々に出力を上げていき、3月上旬には通常運転に復帰することで値上げを回避するという内容です。
「なぜ電力会社によって電気料金が異なるのか?」
「値上げをする電力会社としない電力会社は何が違うのか?」
九州電力の電源の中身や、原子力発電所の現状と今後の方針などから解説します。
「原発再稼働が電気料金を下げるのか?」についてはこちらの動画で詳しく解説しておりますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
目次
日本のエネルギー計画と電源構成の現状
日本のエネルギー基本計画の大前提となるのは「S+3E」の考え方です。
S+3Eとは、Sは安全性(Safety)を大前提として、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一に、低コストでのエネルギー供給を実現し(Economic Efficiency)、同時に環境(Environment)へ配慮することを図っております。
第6次エネルギー基本計画では、これを前提として2030年に向けたエネルギー計画を策定しました。
その目標となる電源構成は、図1の通り火力発電41%・再生可能エネルギー36~38%・原子力発電22~24%としております。これを実現することで安定した電力供給と安価な電源を確保し、2030年度、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指します。
では現在の電源構成と2030年の電源構成目標を見てみましょう。
2021年速報値では図2の通り火力発電に71%以上頼っているのが現状で、燃料費高騰により赤字に転落、大手電力7社は値上げに踏み切りました。
九州電力と他大手電力は何が違うのか?
第6次エネルギー基本計画の計画段階では、経済効率性の考え方として「①コストが低下した再エネの大量導入」「②化石燃料の価格低下」を見込んでいました。しかしロシアによるウクライナ侵攻や円安などの複合的な要因から化石燃料の価格は高騰し、電力量料金への影響を受けることとなりました。
燃料費の高騰を受け昨年夏ごろから赤字に転落した大手電力7社(北海道電力・東北電力・東京電力・北陸電力・中国電力・四国電力・沖縄電力)が経済産業省に値上げの申請を行ったのです。
九州電力も赤字転落となりましたが、記者会見では値上げをしない(当面)と発表しました。
その理由は九州電力の「電源構成」にありました。
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九州電力の電源構成
九州電力と東京電力の電源構成の違いを見てみましょう。
東京電力の電源構成の内訳は、火力発電77%、再エネ(水力発電含む)14%、原子力発電は0%です。一方、九州電力は火力発電わずか36%、再エネ(水力発電含む)19%、原子力発電36%となっております。
つまり他の大手電力と比べても原子力発電、再エネの発電比率が高く、燃料費高騰の影響を他大手電力よりも受けにくい電源構成となっていることが分かります。そして2023年3月には玄海原子力発電所4号機が通常運転に戻ります。電力の安定供給とコストの安い電源を確保したことが値上げしない理由の要因と考えられます。
原子力発電の再稼働で電力量料金は安くなるのか?政府案「60年越え」ルールとは
九州電力の電源構成を見れば燃料費高騰の影響が少ないことが分かりましたが、これにより電力料金を安く維持することはできるのでしょうか?
九州電力の原子力発電所の現状を見てみましょう。
九州電力は、佐賀県にある玄海原子力発電所(1号機~4号機)と鹿児島県にある川内原子力発電所(1号機、2号機)の6基があります。うち玄海原子力発電所の1号機は2015年に、2号機は2019年に運転を終了しましたので現在運転しているのは4基となります。川内原子力発電所の1号機、2号機も図3の通り2024年1基、2025年1基と合計2基が運転終了の目安となる運転開始から40年を迎えます。
現行の法案では、原子力発電所の運転期間は「原則40年、延長は1回限り最長60年」と定められています。
経済産業省が今回新たに示した原子力発電所の「運転停止期間は除外」という案では「60年越え」が可能となります。九州電力が値上げしない理由として「60年越え適用」ありきなのかもしれません。
玄海原子力発電所4号機の建設費用は1997年完成時3,244億円です。
建設から原則40年ルールでは本来新たに立て替えるか、新たな電源投資が必要となります。例えば原子力発電所100万kW級を建設した場合、政府は2018年試算では1基4,400億円程度としておりました。
しかし安全性への配慮、テロ対策など商社や原発メーカーによる試算額は1基1兆円を超えています。建て替え費用が2倍以上、廃炉にかかる費用などを考えれば本当に「コストの安い電源」なのでしょうか?また「60年越え適用」とされた場合、長期間運転の実績もないので、老朽化、安全対策費用は原子炉ごとへの個別対応となるので本当に安い電源として維持可能なのかも不明です。
原子力発電所の現状と再稼働に向けた5つの大きな課題
カーボンニュートラル達成のため、温室効果ガスの排出がない原子力発電を2030年の電源構成として22~24%を見込んでいます。現在国内には2023年2月現在、15原発33基の原子力発電所があります。このうちの半数の17基が運転開始から30年を超えており、さらに、原子力規制委員会の認可を得て、3原発4基の40年を超える運転延長が認められました。
しかし原子力発電は全電源の5.9%しか現在稼働していないのが現状です。政府は原子力発電の課題として下記に1~5を上げております。そしてこの解決方法にもコストがかかります。
1 使用済み燃料への対策 中間貯蔵施設、安全貯蔵拡大への能力
2 核燃料サイクルの実現 原子力発電を維持するための燃料の流れ(処理処分の有効利用)
3 安全性の確保と長期運転の維持 老朽化への対応
4 最終処分場問題
5 地元住民への理解
電力は選べる時代、だからこそ電源と真剣に向き合う時代
小さな燃料ペレットが大きなエネルギーをもたらし安定した電力を創る。その電力は温室効果ガスを排出しない「夢のエネルギー」と言われたのが原子力発電です。
しかし福島第一原子力発電所の事故で「安全神話」を反省し今後の電力としっかりと向き合うことが大切です。エネルギーに完璧なものはありません。コスト、安定供給、環境への配慮を考えたうえ、これからの時代に適したバランスの良いエネルギーを採用することが大切です。
原子力発電は再稼働により一時的なコスト安(燃料費高騰と比較)は可能になるかもしれませんが、特に東京電力圏内では建て替えコスト、次世代型原子力発電への投資、①~⑤の再稼働に向けた課題も山積です。火力発電は化石燃料輸入コストと温室効果ガス排出の問題、再生可能エネルギーも安定したベースロード電源開発へのリードタイム、調整力電源への技術、電源用地など課題はあります。電力高騰を契機に、企業もご家庭もエネルギー問題を真剣に考える時がきたと思います。
記事を書いた人
クリエイティヴ担当