【解説】電力システムの構造が分かれば「電気代を下げる方法」が分かる。

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要約

電気料金の構造と決定要因:電気料金は、基本料金・電力量料金・燃料費調整額・再エネ賦課金などで構成されています。基本料金は30分ごとの最大需要電力を基準に決まり、電力量料金は夏季とその他の季節で異なる単価が適用されます。燃料費調整額は、化石燃料の輸入価格の変動を反映し、最近の価格高騰により電気料金全体が上昇傾向にあります。一方、再エネ賦課金は再生可能エネルギーの導入支援のために設定されており、発電コストや電力市場の動向によって変動する仕組みになっています。

電気料金のコスト構造とスイッチングの限界:電気料金のコストは、発電費用が50~60%、送配電費用(託送料金)が25~30%を占めるため、全体の約9割が固定コストとして決まっています。このため、電力会社を変更(スイッチング)しても削減できるのは最大で1割程度にとどまり、劇的なコスト削減は難しい状況です。発電燃料の選択や託送料金の調整は消費者が直接関与できるものではなく、根本的なコスト削減には発電方法の見直しや消費電力の最適化が必要となります。

電気料金削減の実現可能な手段:企業や個人が電気料金を削減する方法として、自家発電の導入が有効です。特に、太陽光発電を活用することで、発電費用の一部を自社で賄い、送配電にかかる託送料金も不要にできます。しかし、太陽光発電は天候や時間帯に左右されやすいため、蓄電システムの導入や電力使用の最適化が今後の課題となります。電力市場の変動や政策の影響を受けにくい自給型のエネルギー活用が、長期的なコスト削減の鍵となります。

出演者紹介

狩野晶彦
株式会社エネリード 代表取締役

狩野晶彦

電設資材卸会社勤務20年・家電業界専門誌リックの元専任講師・パナソニック客員講師。「ネット・ゼロ・エネルギーハウスとは」「知らないと損する電気料金セミナー」など、電力会社・大手企業・特約代理店等に向けて年間100 回以上の講演を行う。

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

【解説】電力システムの構造が分かれば「電気代を下げる方法」が分かる。

━━━昨今、電気代高騰に関する話題をよく耳にすると思います。ま電気料金の内訳として、明細上にこのような項目があり、それぞれにこれくらいの費用がかかっているという表面的な情報も多くあります。しかし、それだけでなく、電力会社が電気を作り、消費者に届けるまでにどれくらいの費用がかかっているのか、また、それぞれの役割がどのようにコスト構造に影響しているのかについても、狩野さんにお伺いしたいと思います。

普通、電気代の請求が来ると、紙の明細があり、企業であれば「500万円」や「1,000万円」といった金額が記載されています。

細かく見ようと思えば分かりますが、その詳細な決まりがどのようになっているのかは、意外と知られていない部分もありますよね。

電気料金の内訳

━━━先日、別の動画でも触れましたが、まず基本的な知識として、電気料金の明細にはどのような項目があり、それぞれの価格がどのように決まっているのかを解説していただければと思います。

基本料金

まず、契約があります。電力会社とどのような契約を結んでいるのか、例えば工場なのかスーパーなのか、土日も営業しているのか、といった条件によって契約内容が異なります。

そして、それに対して基本料金が設定されます。

基本料金はどのように決まるのかというと、1日30分ごとの計測が24時間で48回あり、1か月では1,440回となります。

この1,440回の30分間のうち、最も電気を使用した時の値を「最大需要電力」といい、それが契約の基準となります。

つまり、最も電気を使った瞬間の電力量が基本料金として設定される。これが1つ目のポイントです。

━━━基本料金は、最大でどのくらい電気を使用したかによって決まるため、年間の総使用量に応じた従量課金とは異なるということですね。

電力量料金(使用料)

次に2つ目のポイントですが、毎月どれくらいの電力量を使用したかが「使用量」となります。

一般的に、電気料金は「夏季」と「その他季」に分かれており、夏季は7月1日から9月30日までの期間を指します。その他季は10月1日から6月30日までで、それぞれ料金単価が異なります。

━━━なぜ夏季とその他季で分かれているのでしょうか?

それは「ピーク需要」が関係しています。

夏は特にエアコンなどの冷房需要が増えるため、電力消費が集中しやすく、料金が少し高めに設定されているケースが多いです。

その他の料金

さらに、使用量に応じて「燃料費調整額」というものが加わります。

加えて、使用した電力量に「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が掛けられ、それらをまとめたものが電気料金として後日請求される、という仕組みになっています。

━━━「どのくらい電気を利用したか」、つまり使用量と、「何で発電されたのか」という点が、燃料費調整制度に大きく関わってくると思います。また、この制度は電力会社によって異なる点もありますよね。

燃料費の計算方法には若干の違いがあり、その詳細については、後ほど東京電力さんの事例をもとにご説明したいと思います。

再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)

まず先に、最近話題になっている「再エネ賦課金」についてお話ししましょう。

━━━以前は3.45円でしたが、国の政策によって1.4円に引き下げられましたね。

これは不思議ですよね。

電力中央研究所の発表によると、再エネ賦課金は2032年まで増え続ける見込みです。その理由は、再生可能エネルギーの導入を促進するためです。

なぜ再エネ賦課金が必要なのかというと、石油などの化石燃料から温室効果ガスの少ない電気へとシフトするためです。

しかし、現在の再生可能エネルギーのコストはまだ高く、それを電力会社が買い取ることで市場を支えています。

この費用を、我々の電気代から負担する形で集め、環境に優しい電気の普及を促進する仕組みとなっています。

この再生可能エネルギー発電促進賦課金は、2012年には0.22円でした。例えば、月に1万kWh(キロワットアワー)を使用する需要家の場合、当時は2,200円の負担でした。

昨年は3.45円だったため、同じ使用量で3万4,500円の請求が発生する計算になります。

━━━なるほど。1kWh当たり3.45円がかかっていたということですね。

この仕組みは、電力会社が再生可能エネルギーで発電された電気をすべて買い取るというものです。

例えば、買い取り価格が40円だった場合、その分、石油・石炭・ガスを使用しなくて済んだことで回避できた費用が発生します。

仮に回避できた費用が10円だとすると、40円から10円を差し引いた30円が不足します。この不足分を国が交付金として負担し、最終的に私たちが電気料金として支払うのが再エネ賦課金の仕組みです。

━━━具体的に、3.45円や再エネ賦課金の価格について触れましたが、この価格はどのように決まるのでしょうか?

これは、まずFIT(固定価格買い取り制度)で設定された買い取り金額がいくらなのかが重要です。
固定価格買い取り制度のもとで必要な全電源の費用、再生可能エネルギーの調整費用、そして今年新たに発電予定の想定量、これを「A」とします。

一方で、電力会社が再生可能エネルギーを買い取ることで回避できた費用、いわゆる「回避可能費用」、そして前年度の余剰金を「B」とします。

再エネ賦課金の計算方法は、AからBを引いた金額を、日本全体の年間想定使用電力量で割ることで決まります。

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具体的な計算を見てみましょう。

2022年度のFIT総額は4兆2,033億円でした。Bである回避可能費用は1兆4,600億円。これを総電力量7,943億kWhで割ると、3.45円という金額になります。

━━━では、なぜ今年は1.4円に下がったのでしょうか?

再エネ賦課金が上がるケースとして、日本全体の電力消費量が減る場合が挙げられます。

━━━母数が減るということですね。

そうです。分母が減ると負担が増えます。

でも、そのような状況は考えられるでしょうか?

━━━なかなか考えにくいですね。

そうですよね。皆さん同じように商売をし、同じように電力を消費するため、極端な省エネは考えにくいと思います。

2つ目の要因として、再生可能エネルギーの増加が挙げられます。

これは望ましい方向性ではありますが、現在の再生可能エネルギーの買い取り価格はすでに9.5円となっています。

近年では、企業が太陽光発電を売電するよりも、自社で発電した電気を自家消費する動きが増えており、その影響は限定的だと思います。

もう1つの要因として、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格が下落すると、交付金が増えてしまい、結果として賦課金が上がるという可能性があります。

しかし、今回はどうなったかというと、実は卸取引価格が上昇しました。

結果として、再エネ事業者にとっては利益が増えたと言えます。

化石燃料の価格が高騰したことで、余剰金も増加し、回避可能費用(B)が約3兆円、つまり3倍近く増加しました。

━━━化石燃料の値上がりに伴い、JEPXでの1kWh当たりの電力取引価格が上昇し、結果として再エネ導入による回避可能費用が大きくなった、ということですね。

しかし、これは喜べる状況ではありません。

マスコミの報道では、「電気代が一般世帯で600円ほど下がる」と伝えられましたが、その分、化石燃料の価格が上がっています。

━━━つまり、国の政策が直接A・B・Cに対してアプローチを行ったのではなく、B(回避可能費用)が結果的に化石燃料の高騰やJEPXの取引価格の上昇によって増えたため、最終的に再エネ賦課金が1.4円に下がった、ということですね。

そうですね。割り戻しが多くなったという、少し皮肉な結果です。

燃料費“等”調整制度

━━━今、燃料費の高騰についてお話がありましたが、燃料費が高騰すると、その価格が電気料金に反映されるのが「燃料費調整制度」ですね。

燃料費調整制度も、正直なところ限界に近づいています。

そのため今回、多くの電力会社が経済産業省に申請を出し、この制度を変更しようとしています。

特に高圧需要家の皆さんに関係するのが、「燃料費調整制度」から「燃料費等調整制度」への変更です。

━━━「等」が加わるのですね。では、これまでの燃料費調整制度では、どのように価格が決められていたのでしょうか?

例えば東京電力の場合、燃料の石油・石炭・ガスには基準価格が設定されています。

この基準価格は4万4,200円で、それを超えた場合はプラス調整、下回った場合はマイナス調整を行う仕組みです。

━━━燃料費の実際の輸入価格が基準価格よりも高くなった場合は、その差額を「燃料費調整額」として消費者が負担する形になりますね。逆(下がった場合)も然り。

はい。ただ、今回各電力会社が抱えるもう一つの課題は、燃料費が上昇すれば燃料費調整額を上げることは可能ですが、電力の仕入れに関する問題です。

不足分を補うための電力を卸市場から調達しようとしても、その価格が高騰しているため、結局その分の負担も大きくなってしまいます。

つまり、制度自体に限界があり、燃料費だけでなく、卸市場の単価も反映させる必要がある、という状況になっています。

━━━では、場合によってはダブルパンチになる可能性もあるということですね。

そうです。まさにダブルパンチです。

━━━燃料費の高騰による影響を少しでも軽減するために、燃料費調整制度だけでなく、「燃料費等調整制度」に変更し、JEPXでの仕入れ価格も反映させる仕組みにした、ということですね。

その通りです。

━━━この制度変更のタイミングはいつ頃でしょうか?

実際には、電力料金の契約更新時から適用されます。

早い会社では、3月に契約が更新されると、2023年4月1日から新制度が適用されます。

そして、1年間の契約更新タイミングに応じて、5月からも順次導入されているため、現在は旧制度と新制度が混在している状況です。しかし、いずれはすべての契約が新制度に移行することになります。

━━━まさに転換期ですね。

これまで1kWhあたり15円~16円で購入できていた電力が、22円~23円に上昇するケースもあります。

さらに、燃料費の変動も加わるため、今後の電力コストはより厳しくなる可能性があります。

電気料金のコスト構造

━━━これまでの話を整理すると、電気料金の明細には基本料金、電力料金、燃料費調整制度による燃調費、再エネ賦課金といった項目が含まれています。

━━━しかし、電力会社が電気を作り、消費者に届けるまでの構造的なコストは、どの部分にどの程度かかっているのか、気になるところですね。

需要家は、請求書の金額しか目にすることができません。

━━━あくまで制度上の価格として提示されているわけですからね。

発電料+託送料(送配電)+小売(利益)

電気料金にはさまざまな要素が含まれていますが、細かく分解すると「発電料」というものがあります。つまり、電力会社が卸取引所で調達する電気の発電コストです。

そして、電気を販売する会社は、発電した電気を需要家へ届けるために「託送料金」を支払います。これは電力を送るための料金です。

最終的に、この発電料と託送料金に、自社の利益を加えたものが「電力量料金」となります。

━━━つまり、電気料金の構造としては、発電・送配電・小売の3つに分かれるというイメージですね。

スイッチング

一時期、「スイッチング」が流行しました。

━━━電力会社を変える、ということですね。

そうです。多くの企業が電力会社を変えてコスト削減を試みました。これ自体が悪いわけではありませんが、実際の効果は限定的です。

なぜなら、電気料金の内訳を見ると、発電料が全体の50~60%、託送料金が25~30%を占めています。つまり、この2つだけで約9割を占めているため、電力会社を変えて安くできる部分は1割にも満たないのです。

そのため、電力料金を大幅に下げるには、発電と送配電の仕組み自体を大きく変えない限り、根本的な解決にはなりません。

━━━では、発電にどの燃料を使うかが料金の約5割を占めるということですね。ただし、発電方法や託送料金は、我々一般消費者が直接コントロールできるものではありませんよね。

━━━発電・送配電・小売の影響を受けずに、私たち自身の工夫で電気料金を下げる方法があるとすれば、狩野さん、どのような手段が考えられますか?

手っ取り早いのは、屋根に太陽光パネルを設置し、自家発電した電気を使用することです。

これにより、発電料は自社負担となり、さらに託送料金も不要になります。ある意味、理想的な電源と言えます。

ただし、デメリットとして、発電量が時間帯や季節によって左右されやすい点があります。

次のステージでは、この課題をどのように克服し、効率よく活用するかが重要になってくると思います。

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記事を書いた人

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴を持つ。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)、2025年に第二種電気工事士資格を取得。

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