【COP28】なぜ世界と日本で太陽光発電の導入量に大きな差が生まれているのか?

投稿日:2024年11月6日
更新日:2024年11月7日
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要約

そもそもCOPとは?:COP(締約国会議)は「Conference of the Parties」の略で、気候変動に関する国際会議のこと。特に気候変動への取り組みが注目されており、26回目のグラスゴー会議(COP26)では1.5℃目標が掲げられ、各国が温室効果ガス削減に向けて努力を強化することが確認された。COP28では、世界の取り組みを評価する「Global Stocktake(GST)」が導入され、各国の削減目標の進捗が見直される。各国の目標は5年ごとに更新され、取り組みの厳格さが増している状況。

太陽光発電の普及:日本では太陽光発電が再エネの中核を担い、電源比率も2010年の0.3%から現在では約10%まで成長。FIT(固定価格買取制度)によって導入が促進されたが、買取価格の引き下げと共に成長率が鈍化しており、最近の導入量は目標の5GWに対し、3年間でわずか2.3GWにとどまっている。さらに、出力抑制や送電網制約が課題となり、採算性の低下やコスト増加によって発電事業者の投資意欲も減少している。

脱炭素実現に向けて:脱炭素社会の実現には、再エネの普及だけでなく、企業や家庭が自家発電や省エネに取り組む必要がある。2030年や2050年のカーボンニュートラル達成には、企業のスコープ3対応(サプライチェーン全体の排出削減)も重要で、COP28でも国や企業、個人における脱炭素の取り組みが強調される見込み。

COP28は、何が話されるのか?

COP(締約国会議)が注目される中、気候変動への取り組みの進展を目指す国際的な会議で、毎回新たな期待が寄せられています。

しかし、具体的な行動が伴わず、目標達成するか否かは不透明です。

今回のCOP28では、各国が温室効果ガス削減目標の達成状況をチェックする「Global Stocktake(GST)」が始まります。

COP28、ひいては世界と日本を比較して見えた、日本の再エネの現状について株式会社エネリードの狩野晶彦氏に聞きました。

出演者紹介

狩野晶彦
株式会社エネリード 代表取締役

狩野晶彦

電設資材卸会社勤務20年・家電業界専門誌リックの元専任講師・パナソニック客員講師。「ネット・ゼロ・エネルギーハウスとは」「知らないと損する電気料金セミナー」など、電力会社・大手企業・特約代理店等に向けて年間100 回以上の講演を行う。

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

COP28の開催

━━━COPとは何でしょうか?

COPとは“Conference of the Parties”の略で、日本語では「締約国会議」と訳されます。つまり、条約を締結した国々による会議のことで、さまざまな締約国会議があります。

特に最近「COP」として報道されるのは、気候変動に関する会議のことを指す場合が多いです。

今回は28回目ですが、過去の26回目・27回目では何があったのか、簡単に振り返ります。

26回目はイギリスのグラスゴーで開催され、当時ジョンソン首相が熱心に取り組んでいたのが印象的でした。また、岸田首相の国際会議デビューの場でもあり、話題となりました。

さまざまな発表が行われ、気候変動や地球温暖化の原因が人為的な経済活動にあるということが改めて確認されました。「人類のせい」と言っても過言ではない、疑いの余地がないとされ、このCOP26でシンボリックなキーワードが生まれました。

よく耳にする1.5℃目標も、このタイミングで世界に発信され、そこから各国は、1.5℃目標を含む対策のスピードを上げようとしています。

それを受けて27回目がエジプトで行われ、今回の28回目はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイでの開催です。

ここでまた世の中を大きく変えるような発表があるかもしれません。「GST」つまり“Global Stocktake”が始まり、各国が温室効果ガスの削減目標に向けて努力を行っているかを確認します。

目標は5年ごとに更新し、2年ごとに実績を報告。5年ごとに評価を行い、全ての国に対して地球温暖化や温室効果ガス削減への取り組みがさらに明確に示されるでしょう。

━━━今までは比較的「努力目標」のような印象が強かったのでしょうか?

そのような印象はありました。

例えば、イギリスのグラスゴーで開催された際も、石炭火力発電の段階的な廃止が掲げられたものの、最終的には「段階的な削減」という表現に留まりました。こういった背景もあり、今回は再生可能エネルギーの導入量を3倍にするという提言が出されています。そして、省エネ目標は2倍です。

このような目標の達成は、劇的な技術革新がなければ、実現は難しいでしょう。

この目標達成のために、GST、つまり温室効果ガスに対する総点検を行います。2030年までに2020年度比で3倍、ということですからね。

気になるのは、果たして本当に達成できるのか?。この実現可能性を把握するには、まず、現状の把握が重要です。

現状確認のためにも、第6次エネルギー基本計画が参考になります。ここでは火力発電を41%、再生可能エネルギーを36〜38%、原子力の再稼働を20〜22%とし、2013年度比で温室効果ガスを46%削減するという目標が設定されています。

しかし、現状は火力発電が41%まで減らせておらず、まだ72.5%です。

再エネは増加し、22.7%に達していますが、原子力の再稼働が進んでいないため、再エネの割合をさらに増やす必要がある状況です。

以前の動画でも言及しましたが、原子力が稼働しない分をどう補うかが重要になってきます。

COP28で、2022年度比の3倍を求められている状況で、現在の再エネ割合は22.7%です。つまり、68%まで再エネを増やすことが必要です。

これが実現できれば、原発が動かなくても大丈夫となりますが、それが果たして可能かどうか。

8年前の2014年において再エネ全体の割合は12.1%でした。そこから約10年かけて約2倍になりました。それを残り8年で3倍にするとなると…様々な問題が出てくることは避けられませんが、これが現状です。

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太陽光発電の普及

━━━日本の再エネは、現在、どのような状況でしょうか?

再エネの中心となるのは、恒電社も事業として扱っている太陽光発電です。再エネの大きな電源になると考えています。

2010年にはわずか0.3%だった電源比率が、現在は約1割に達しています。一番成長してきた分野です。

再生可能エネルギーが普及し始めたのは、2012年のFIT(固定価格買取制度)の導入がきっかけでした。当時は40円/kWhでしたが、現在は9.5円/kWhまで下がりました。

これを見ると、太陽光発電はかなり成長してきたと言えるでしょう。目指されていたのは「グリッドパリティ」ですね。

国としても太陽光発電や再エネの競争力を高めるために、40円/kWhだったFIT価格を段階的に引き下げ、安価で再生可能エネルギーが市場に出回るようにしたかったわけです。

今は徐々にその価格が下がり、2030年の目標は7円/kWhです。2007年に作られた太陽光発電のロードマップでも、7円/kWhを目指すことが掲げられていました。

調達価格は8.5円/kWhと設定され、2027年にはトップランナー15%程度の発電所がこのコストに到達し、2030年には50%を目指しています。こうなれば、太陽光発電は本格的な主力電源として成長できるでしょう。

━━━太陽光発電が、特に原子力が稼働しない場合の代替として、迅速に導入できる再エネとして重要視されていますが、これまでの普及状況や今後の普及における課題についてはいかがでしょうか?

世界的な動向を見ると、2014年度比で導入量が約6倍にも増えているんです。しかし、日本も同様に伸びているかというと、そうではないのです。

途中までは順調に増えていたものの、最近は大きくブレーキがかかっています。実際、成長率が半減してしまいました。

世界の太陽光発電導入量と比べると、日本は逆行している状況ですね。世界第3位の導入量を誇るものの、このペースでは失速していると言わざるを得ません。

具体的にどのくらい失速してきているのかと言うと、2030年の温室効果ガス削減目標を達成するためには、年間5GWの導入が必要です。

━━━現在、どれくらいの導入が進んでいるかご存じでしょうか?

実は過去3年間で、2.3GWしか新規認定が増えていないんです。

年間5GW必要なところを3年で2.3GWしか導入できておらず、12.6GWも不足している状況です。これは自家消費型を含んでいない数字ですが、それでも大幅に不足しています。

再エネを必要とする企業が今後増加する中で、現状はこのような遅れが生じています。

世界と比較しても、日本は導入量が減少傾向にあり、発電量も明らかに少ない状況です。

2012年にFIT制度が始まり、その時点では発電した電力を国が一定の金額で買い取る制度だったため、太陽光発電の需要が大きく伸びました。

特に2013年頃から急成長しましたが、最近は失速しています。これは国が再エネの競争力を高めるため、発電コストの低下を目指していることが背景にあります。

つまり、調達価格を下げる、FIT価格を引き下げるということですね。

これにより、投機目的で投資を行っていた人たちはリターンが少ないと感じ、撤退する傾向にあります。

9.5円/kWhという現在の価格では、十分なリターンが得られない状況です。

これを受けて、大規模化を進める動きが見られますが、メガソーラーのように大規模な設備の場合、特別高圧の2MW以上の発電は送電網へのアクセスが制限されることがあることに加え、用地確保や経済産業省の許認可手続きにも課題があります。

さらに、最近の話題ですが、出力抑制により利益が減少する問題があります。例えば九州エリアでは2024年に約10%の出力抑制が見込まれており、発電事業者にとっては10%の損失を見込む必要があります。

━━━「出力制御」について、視聴者の方に簡単にご説明をお願いできますか?

発電にはさまざまな方法があり、優先的に稼働する「ベースロード電源」と、一時的に利用される「ピーク電源」など、電源にも種類がある中で制御が行われています。

━━━太陽光発電はその制御の順位で言うと?

下から2番目になります。

制御可能な順番が国で明確に定められており、24時間稼働する原子力や水力発電といったベースロード電源は最も下、つまり制御が難しい電源です。

その次に必要とされるのが、太陽光発電や風力発電で「VRE(Variable Renewable Energy)」と呼ばれ、制御の順序としては下から2番目です。しかし、発電に適した季節には、特に九州エリアでは太陽光発電だけで電力供給がほぼまかなえるほどの発電量となります。

電力供給と需要は常に一致させる必要があるため、供給量が多くても需要が少ない場合は出力制御を行う必要があります。

この出力制御は、まず太陽光発電に対して行われます。火力発電は制御の優先度が上位にあるため、それで対応しきれない部分を太陽光発電で制御することになります。

そのため、制御がかかると発電量の一部が売電できなくなり、特に発電量が多い「良い時期」に抑制がかかることになります。

投資家にとっては、予定していた売電収入が減少するため、採算が合わなくなってしまう場合があります。

9.5円/kWhという現在の価格を考えると、採算性はさらに厳しくなっており、発電事業者もコスト削減が追いついていない状況です。また、最近増えているケーブル盗難の被害も深刻です。

ケーブルの盗難による影響で発電が停止すると、修理の期間中は売電収入が得られないですからね。

さらに近年は自然災害も増えており、これに伴い保険料が上昇していることも事業者にとって負担となっています。こうしたコスト増加の影響で、9.5円/kWhという価格水準では、発電事業者の投資意欲が低下しているのが実情です。

脱炭素実現に向けて

━━━今までのお話をまとめると、日本でも2012年頃からFIT制度を活用して、再生可能エネルギーとしての太陽光発電の導入が急増しましたが、現在はその増加具合が鈍化しているということでした。FITの認定量が減少している背景には、経済合理性が薄れてきていることが挙げられますね。

日本が今後進むべき方向として、2つの考え方が重要だと思います。

1つは、経済性や合理性を重視し、大手電力会社が正しい投資を行い、再生可能エネルギーの発電所を増やすこと。それを国が支援するやり方です。もう1つは、企業や家庭が省エネや自家発電の努力をし、温室効果ガス削減を目指す方法です。これら2つの取り組みを両立することが重要だと思います。

2030年や2050年のカーボンニュートラル目標達成のためには、政府だけでなく、個人や企業も自家発電などで脱炭素に向けた準備をしていくことが求められます。COP会議でも言及されていたスコープ3の取り組みのように、国だけでなく企業レベルでも対応が必要になるのではないでしょうか。

大手企業ではすでにスコープ1・2の対応が進んでおり、今後はスコープ3にも取り組むことが求められてきます。その準備が今まさに必要です。

今回のCOP28は、国や企業、個人の動き方が大きく変わりそうなメッセージング性の強い会議になるでしょう。

この記事を書いた人

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴も。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)を取得。

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