【取材 | 製造業社長】原材料高騰、迫る脱炭素。次世代に繋げる“日本のものづくり”と設備投資の関係性
更新日:2023年12月21日
「脱炭素の政策が、現実ばなれした目標のまま推進してしまうと、日本を支える製造業が無くなってしまうのではないか?」
そう懸念するのは、埼玉県に拠点を置き、パール・ロータリージョイント等の製造装置における配管部品を製造している、株式会社昭和技研工業の代表取締役社長 岩井氏。
2011年に最初の太陽光発電システムを導入したのち、2022年には自社の駐車場に自家消費型太陽光発電パネル付きカーポートを追加で導入した当社は、来たる脱炭素社会に向けて積極的に投資を進めている埼玉県でも指折りの先進企業だ。
2050年のカーボンニュートラル達成や、2030年の46%削減(2013年度比)目標に対して、国の政策が徐々に具体性を増していくなか、これまで日本を支えてきた製造業は温室効果ガスの大口排出先でもあるため、岐路に立たされている。
加えて、原材料の高騰が追い討ちをかけ、価格転嫁ができなかった企業の倒産が相次ぐ。
そういった難しい状況の中、脱炭素に向けて積極的に投資を進める岩井氏には、どのような想いがあるのか?また、原材料が高騰した分はすでに価格転嫁できているという当社にはどのような要因があるのか?
製造業経営者が気になるであろうリアルな質問をぶつけた。
前回のインタビューのハイライト
目次
製造業が「カーボンニュートラル」に持つ正直な印象とは?
━━━まずは、改めて貴社の事業について教えてください。
弊社は埼玉県に拠点を構える製造業で、パール・ロータリージョイント等の製造装置における配管部品を製造している会社です。
固定配管と機械装置の回転体を配管したり、配管自体が可働したりするジョイントも作っています。お客様は、製鉄やプラスチック関係の企業が多いですね。
直近では「EVのバッテリー」用の部材を製造する装置の配管の製造も行っています。
━━━前回インタビューさせていただいてから一年ほどが経過しました。この一年間あらゆる社会変化があったかと思いますが、「カーボンニュートラルへ向かう今の社会情勢」をどのように考えていますか?
COP28に関しては、残念ながら大きな合意を得られずに閉幕すると予想されます。
私自身は、もともと「120点を取らなければ合格できない目標設定自体」に問題があったと感じています。
高すぎる目標が設定されることで、経済的にまだ発展途上の国々や、多くの炭素排出を行っている業界にとっては、カーボンニュートラルは現実的でなく、経済的に重い負担であるという見解が強まってしまいます。
そうするとカーボンニュートラルへの移行に関する意見が分かれてしまい、国際社会がますます分断に向かってしまうのは当然の結果です。
一年前もお話しましたが、弊社としては「とにかく70点でもいいから、できることをやろう」という想いでコツコツと脱炭素社会に向けた取り組みを進めていくことが正しいのかなと思っています。
━━━カーボンニュートラルや脱炭素社会に対して、日本の「製造業の会社」はどのような印象を持っていると思いますか?
やっぱり高すぎる目標を課せられると、何からしたら良いかも分からず、やる気がなくなってしまう企業もあるのではないでしょうか。
あとは、製造業は温室効果ガスの大口排出先でもあるので、これまで日本を支えてきた製造業がいきなり国際社会から悪者にされてしまったような印象を受けているかもしれませんね。
これは非常に悲しいことです。
なぜカーボンニュートラルに向けて積極的に投資しているのか?
━━━そのような印象を持つ製造業の企業もいるなか、貴社は脱炭素社会やカーボンニュートラルな社会の到来に向けて、積極的に投資を行っているのは何故でしょうか?岩井様のモチベーションの源泉を教えてください。
二つあります。
一つ目は、次世代の人々に日本の製造業、「ものづくり」を継承したいという強い願いを持っているからです。
私は、大前提カーボンニュートラルに向けた国際的な潮流には賛同をしています。
脱炭素社会に向けて積極的に取り組み、次世代に今の地球環境をしっかりと継承していくことは今の大人の義務だと思っています。また、我々がコツコツと取り組みを進めていくことが、結果的に日本の製造業の未来につながると信じています。
ですので、我々の世代でできることはコツコツとやるべきという思いのもと投資を進めています。
もう一つは「ハングリー精神」だと思いますね。
正直な話、2020年10月に菅前首相が2050年カーボンニュートラル宣言を発表した際に、憤りを感じました。
「なぜ製造業だけを悪者扱いするのか?」
「無理難題な目標を掲げて、日本の製造業を潰す気なのか?」
「日本を支える製造業がなくなってしまうのでは?」
と感じてしまったのが事実です。
ですが、よくよく考えていくうちに、であれば「徹底的にクリーンな製造業を実現することで、日本の製造業(ものづくり)を必ず次世代に継承しよう」と、強いハングリー精神に駆られました。
こういった想いが、脱炭素社会に向けて色々と取り組むモチベーションの源泉になっていると思います。
━━━想いはありつつも実際に投資ができていない企業もあるなかで、貴社が実際に投資を行えている要因は何でしょうか?
正直なところ、「企業としてある程度の経済的な余裕がないと難しい」と思っています。
幸いなことに弊社は直近で過去最高の売上を達成するなど経営状況が比較的安定しています。
その利益を源泉に未来に向けて積極的に投資ができています。
一方、目の前の仕事や経営で精一杯な企業にとっては「カーボンニュートラルに向けて何かやらないといけないことは分かっているけど、今はそれどころじゃないよ」という状況がリアルだと思います。
━━━なるほど。やはり企業の「経営状況」がカーボンニュートラルに取り組めるか否かの大きな要因なのですね。ちなみに少し話が逸れますが、過去最高売上の要因はなんでしょうか?
「EVのバッテリー」用の部材を製造する装置の配管を製造しており、EVの需要拡大により世界中の名だたる大手メーカー様からお引き合い頂いたことが大きな要因の一つです。
上手くいけば2030年頃まで安定的な需要があると見込んでおります。
そういった意味では、弊社は恵まれている市場環境で事業ができていると思いますね。
設備投資するかの「判断基準」、そして「優先順位の付け方」
━━━多くの経営者の方が、設備投資をするか否かの「判断軸」や「タイミング」、そして「優先順位の付け方」に悩んでいらっしゃると思います。岩井様の設備投資に対するお考えをお聞かせください。
まず、弊社はカーボンニュートラルに向けた投資が目立つように思うかも知れませんが、必ずしもそれだけではありません。
この数年間で社内の基幹システムの入れ替えには、相当のお金を費やしましたし、研究開発の拠点として新たな建屋の建築も進行中です。
多方面に分散的に投資をして、計画的にシナジーを生み出していくことが重要だと考えています。
私自身のバックグラウンドは、経理・総務にあります。
そのため、会社の財務には比較的詳しく、会計や税務の観点から数字を基に合理的な投資判断ができていると思います。
例えば、現在の本社工場が稼働したのが平成5年(1993年)で、今年で30年が経過しました。
その際の設備投資については、ほぼ減価償却が終了しており、その負担が減った分を新たな設備投資に回しています。工作機械の入れ換え等についても基本的には同じような考え方です。
複雑にしすぎず、シンプルに考えるようにしています。
また、設備投資の判断基準と言えるかどうかは分かりませんが、5年に1度、経営中期計画を策定しており、その計画に基づいて財務状況や市場環境を見ながら、「人」や「設備」に必要な投資を行っています。
そして投資の優先順位の付け方については非常に明確です。
設備投資よりも「人財投資」を優先します。
━━━なるほど。人財投資を優先する背景を教えてください。
中小企業は「人」が全てだからです。
私は総務部で「採用活動」もやっていたので、この言葉の重みを痛感しています。
人のスキルや人間性が、企業の生産性に大きな影響を与えることを身を持って理解しています。
製造業では、自動化・デジタル化・ロボット化が進み、人間による精度のブレや齟齬を極限まで減らす方向に発展しています。
ですが、ものづくりにおけるヒトの重要性が揺らぐこれからの時代だからこそ、企業で働く人がやりがい・技術力・責任感・人間性を持っていることが、これからの企業の「差別化」に繋がってくると信じています。
それが、設備投資よりも「人財投資」を優先する理由ですね。
主要原材料「鉄」が約2倍に高騰。なぜ販売価格に転嫁できたのか?
物価高が中小企業の経営に影を落としている。原材料高に値上げが追いつかない「物価高倒産」は2022年度に463件と過去最多だった。新型コロナウイルス禍を受けた日本の価格転嫁の進捗は米欧の半分ほどだ。経営難の企業が増えれば、高まる賃上げ機運も腰折れしかねない。
引用:物価高倒産463件で最多 進まぬ価格転嫁、米欧の半分(日本経済新聞/ 2023年5月3日 )
帝国データバンクの集計では、仕入れ価格の上昇や価格転嫁できなかったことを倒産の理由に挙げた企業数は22年度は463件だった。21年度の136件の3.4倍となった。特に23年3月は単月で67件と過去最多を記録した。
━━━直近一年間で電気代を含む、あらゆる製造原価が高騰しております。製造コストの増加が「事業に与えている影響」と「経営方針・事業計画の変化」について教えてください。
最近の原材料や電気代の高騰は、製造業にとって非常に大きな課題ですね。
我々の事業においても、主要材料である鉄の価格がここ数年で2倍近くに跳ね上がり、製造コストにかなりの影響を与えています。
━━━その分を価格に転嫁できていますでしょうか?
幸いにして、長年培ってきたお客様との信頼関係のおかげもあり、ご理解を得て、価格転嫁を実施することができました。
カタログ商品については15~20%の値上げを行ったおかげで、経営方針や事業計画への影響を最小限に抑えることができました。
━━━価格転嫁ができず倒産に追い込まれてしまう企業が多いなか、価格転嫁ができた要因は何でしょうか?
まず、我々の業界は非常にニッチなので、需要に対して供給できる企業が限られているという構造的な要因は大きいと思います。
もう一つは、なるべく価格を上げない努力を続けてきたことですね。
リーマンショック直前の鋼材価格高騰の時には、さすがに価格を上げざるを得なかったんですが、2013年には中国や韓国製品に価格競争力で負けないように逆に価格を下げたのです。
リーマンショック時の値上がり以降、競合他社はじわじわと値上げを進めていく中、我々は長期間に渡って価格を維持する戦略をとってきました。
ところが、2022年に入ってからは、鉄の価格が2倍になるなど原材料の価格が大幅に上昇し、製造コストにおける原材料の比率が大幅に増えてしまったため、価格を上げざるを得ない状況になりました。
2013年以来の価格改定ですので苦渋の決断でしたが、これまでの価格維持の努力を評価していただいているお客様のご理解のおかげもあり、今回の値上げはスムーズに進めることができました。
ちなみに電気代の高騰に関しても、太陽光パネルを増設したことで、何とか電気代高騰の影響を最小限に食い止められています。
今後、カーボンニュートラルにどう向き合っていくのか?
━━━貴重なお話ありがとうございます。最後に今後の計画について教えてください。
2023年6月から第四次5ヶ年計画がスタートし、その中に『SDGs経営』という文言を含めました。
現在、専門機関の方にご協力いただきながら、SDGs社内浸透を目的とした社員研修や、CO2排出量の算定・マテリアリティの特定、およびSDGsマッピング作成しています。
また、中小企業向けSBT認定や埼玉県SDGsパートナー企業への登録に向けても動いています。
これからも我々ができることをコツコツ、着実に進めていきたいと思います。
━━━貴重なお話ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
導入事例
恒電社では、様々な自家消費型太陽光発電システムの導入事例もご紹介しております。
是非ご覧ください。
インタビュアー・記事を書いた人
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