【経営者取材】「人間が生み出す廃棄物を、一度は目で見てもらいたい」|太陽光発電を導入した、株式会社クマクラ(産業廃棄物処理業)がインターンシップで若い世代に伝える“現実”とは?
更新日:2024年3月1日
株式会社クマクラ様は「環境とリサイクル社会をサポートする」という経営理念のもと、産業廃棄物処理業に約半世紀以上従事した経験を生かしながら、最新の設備を活用し、高品質なリサイクル資源を生み出すなど、持続可能な社会実現に向けた取り組みを積極的に行っている企業です。
埼玉県協賛のもと、「3S運動(スタイル・スマイル・セイケツ)」の一環として、環境美化活動や使用済み切手を社会福祉法人に寄付を行うなど、積極的に社会貢献活動に取り組み、地域の皆様からの信頼と愛される企業として知られています。
恒電社では、2023年に新設された工場に自家消費型太陽光発電設備の導入を実施させて頂きました。
この記事では、株式会社クマクラの熊倉毅様・熊倉真弓様にインタビューをし、環境への取り組みを積極的に行なっている理由、そして二人が若い世代に伝えたい想いなど、環境を意識する経営者が気になるであろうリアルな質問をぶつけました。
業界がもたれるイメージへの葛藤
━━━御社の事業遍歴について教えてください。
株式会社クマクラは、私達の父親が、1953年に東京都中野区にて運送業として創業し、建設現場への資材運搬を主な事業としておりました。
その後、高度経済成長期のなかで大量生産、大量消費による高層ビルやマンションの建設が進んでいきました。当時の日本経済には「とにかく建てろ、作れ、捨てろ、燃やせ」の風潮があったと思います。
そういった背景から、資材を現場に運搬するだけでなく、建築現場で多く発生する「産業廃棄物」の運搬も手掛けるようになりました。当時は、産業廃棄物という用語は一般的ではなく、「ゴミ」や「ガラ」などと呼ばれていましたね。
それが弊社の原点です。
建築現場から廃棄物を運搬していくうちに「やっぱり弊社でも処理施設を持ちたい」「産業廃棄物を処分場に運ぶだけでなく、最終処分するところまで責任をもっていきたい」という想いに駆られたため、埼玉県三芳町に最終処分場を開設しました。
5年かけて最終処分場の埋立が終了した後は、積替保管施設を通じて資源物の分別とリサイクルに着手したり、コンクリートジャングルと言われる首都圏でのコンクリート廃材の多さに対応するため、破砕施設の設置しました。そしてその後、処理能力のさらなる拡大を目指して焼却施設も設置しました。
その後、より幅広い処理ニーズに応えるために、1億6000万円を投資してダイオキシン除去装置を備えた焼却施設へリニューアルしました。
ダイオキシン:モノを燃やしたときなどに出る化学物質。
そして満を持して完成…と時を同じくして出てきたのが、ダイオキシン問題です。
かつ、ダイオキシン問題の元凶として「所沢市」に白羽の矢が当たってしまったのです。
━━━なぜ所沢市だったのでしょうか?
所沢市の葉物野菜から高いダイオキシン濃度が検出されたとテレビ番組で報じられてしまったからです。
工場近隣市町は、首都圏から30キロ程度の距離があり、比較的農地や宅地でない山林(雑木林)があることなどからか、産業廃棄物処理業者が集中していました。
そういったことも相まって、1995年12月、この地域の雑木林において高濃度のダイオキシンが検出されたと、マスコミが大きく報道したのです。
以降大問題化してしまいました。
当時、弊社の創業者が埼玉県の産業廃棄物協会で副会長を務めていたため、「熊倉さんが火消しをしてほしい」という話になりました。
そして創業者(父親)が「クマクラの施設を見せてきちっと説明する」と表に出たことが逆目に。
その説明がニュースに取り上げられたのです。
そしたら「元凶はここ(クマクラ)だ!」みたいな形でマスコミが弊社に押し寄せるようになりました。
創業者と私がずっと工場でインタビュー受けていましたが、時にはお答えしたことと正反対のことを記事に書かれてしまうことも多々ありました。そんな事実は一切ないんだけども、汚染水を垂れ流してるとかね。
相当バッシングを受けましたよ。
「火葬場と一緒で、自分たちの近くにはあって欲しくない」
「産業廃棄物処理施設は、迷惑施設だ」
世の中にとって絶対に必要な産業にも関わらず、イメージだけで悪者にされてしまうことに、心の底から悔しさとやるせなさを感じましたね。
その後、いろいろな市民団体が所沢市のダイオキシン問題に興味を持った結果、埼玉県も何も対応しないわけにいかないということで「地域の焼却施設許可は返上させていきます」ということになってしまったわけです。
やっぱりこの業界でやっていく以上は、行政と連携を取りながら事業をしていかなくてはならないということもあり、結果的に十分稼働しないまま焼却施設は廃止となりました。
またお客様であるゼネコンも「処理品目が揃っていないような状態だと、クマクラさんとはお付き合いできない」ということから、数社を残して取引がなくなってしまう状況になりました。
会社・家族が存亡の危機となりましたが、その後社員たちも含めてたくさんの方々に助けていただきながら地道に頑張ってきたおかげで、少しずつお客さまも増え、設備や取扱い品目数も増えていきました。
近隣住民の方々とも、ご挨拶やこまめなコミュニケーションを大切にすることで、今ではとても良い関係性を築けています。皆さんの理解を得ながら、経営も軌道に乗せることができましたが、当時は本当に苦難でしたね。
理想像のために、できることを拡げていく
━━━運送業からスタートした御社は「本来はこうあるべきだよね」という思いのもと、対応できることの幅を広げてきたと思います。とはいえ、対応できる幅を拡げなくても今仕事があるから問題ないという判断もできたとは思います。なぜ御社は対応できる幅をどんどんと拡げていく 選択をしたのでしょうか?
少し長くなります。
私が30歳になったときに、たまたま両親が子育て時代におこなっていた交換日記の中身を見る機会がありました。
父は、私が寝ているときに仕事から帰ってきて、私が朝起きる頃にはすでに仕事に出ている。
父は私を世話をできる時間がなかったから、いつも母と交換日記をしていたみたいです。
今日どうだったとか、今日この子が〇〇だったので大変だったとか、なかなかミルク飲まなかったとかいろいろと書いてある中で、父がしきりに「環境汚染」について書いていたのです。
そこには「この子が大きくなっていくにあたって公害や環境汚染が本当に心配だ」と書いてありました。
おそらく自分で資材運搬や産業廃棄物の運搬をするなかで、目の当たりにするゴミの多さや、世間の環境意識の低さに直面して、将来の環境汚染や水俣病のような公害についてとても心配していたんだと思います。
こどもたちの世代がそういった病気で苦しんでほしくないと。
30歳になってその日記を見たときに、やっと気がついたんです。
というのも「父はなんでゴミ屋さんなんだろう」って、ずっとわからなかったんですよね。
当時は恥ずかしかったんですよ、やっぱり。
学生の頃に「お父さんはお仕事何をやってるの?」と聞かれると、「サラリーマンではなくて、自営業」と答え、「じゃあ自営業で何やってるの?」って聞かれたら、「運送屋さん」と言っていました。
「正直、何で父はゴミを運ぶ仕事をしているのだろう?」と、いつも思ってたんですよね。
ですが、その日記を見たときに、父は20代の若い頃から公害のこととか大気汚染のこととか、意識を持ってたことを知りました。
ですので、「何か目標があって…儲かるために…」といった理由で対応できる幅を拡げたというよりは、父の環境に対する想いや危機意識があったからこそ、自然な流れでそうなっていったのだと思います。
人材が大事。だからこそ、ノウハウは社内に蓄積する
━━━ありがとうございます。これからリサイクルとかエコ意識がさらに高まっていくと、廃棄物の絶対量が減っていくと思います。また、競合と差別化がなかなか難しい業界だと思いますので、どうしても価格競争になるリスクがあると思います。そのなかでの御社の強みはどういったところにあるのでしょうか?
まずは、対応できる品目が多いこと(許可が多いこと)ですかね。
木材のみ、プラスチック系のみなど、品目の種類を絞った専門処理業者が多いなか、弊社は8種もの品目を取り扱っています。
そういった総合的な対応を可能にしているのが、2014年にリニューアルをした所沢エコ・プラントです。今回自家消費型太陽光発電設備を導入したのも当施設ですね。
先端技術と設備が完備されており、先代の頃から環境問題と向き合い続けてきたクマクラの、まさに集大成ともいえます。
今の時代は、簡単に許可が取れなくなっているため、まず許可を持っているだけでも価値があると思います。
ちなみに許可の申請などは、全て社内メンバーで行なっていますよ。
━━━なるほど、自社で申請をするメリットはなんでしょうか?
やはり社員がしっかりと中身を理解できてるということです。 許可の内容を理解して、知識を学ぶ機会として社員教育に取り入れています。
全員が手に取るように中身をしっかり理解していることは、弊社の強みですね。
仮に行政書士さんに頼んでしまえば、タイムイズマネーでスピードは早いかもしれない。
ですが、「中身がわからないけど、行政書士さんに頼みました。認可が降りました。」ではコンプライアンス上の問題があると思います。
弊社は自社でやっていますので、「今、何を聞かれてるから、何を答えなきゃいけない」とか、「どの数字を行政から求められてる」などがすぐにわかるわけです。
そう考えると、自社で作成できた方が人材育成にもつながり、結果的にスピード自体も速いかもしれないですね。
「人間が生み出す廃棄物を、一度は目で見てもらいたい」
━━━御社は採用(インターンシップも含む)に積極的に力を入れているとお聞きしました。御社が採用に積極的に力を入れられてる理由や、採用における課題があればをお聞かせください。
実際は、採用活動はなかなか難しいですね。
もちろん、会社として売上を伸ばしていかなければならないので、そのためには継続的な人材採用が必要だと感じています。
他の企業にも共通するかもしれませんが、今は30代〜40代の中間層の採用が課題ですので、さらに力を入れて取り組んでいきたいです。
━━━新卒採用やインターンシップも行なっているのでしょうか?
新卒採用も、インターンシップも行なっています。
新卒やインターンシップの方々が入ってきてくれると、先輩後輩の関係ができるので、お互いが成長できますよね。
ちなみに弊社が求人募集をする際は、「リサイクル企業です」「環境に配慮している企業です」というポイントを求職者の方に伝えているのですが、そうすると新卒やインターンとして応募が来るのは「女性の方」が非常に多いのです。
━━━それはどういう理由があるのでしょうか?
やはり「環境」というキーワードを見ることで、“綺麗”な環境のイメージが伝わっているのだと思います。
ですが、弊社の綺麗な事務所にきてインターンをしたとしても、その方にとって環境と向き合うイメージは感じ取れないと思っています。
ですので、弊社のインターンシップは「工場」で行っております。
インターンシップを半日コースで年間通して開催しているのですが、たとえ採用に結びつかなくても、“リアル”を見にきて来てほしい、“リアル”を持ち帰って欲しい、という想いがあり、インターンシップは続けています。
━━━“リアル”とはどのようなことでしょうか?
「環境を守るために、こんな大変なことを一生懸命にやっているんだ」というのを、現場に出てもらい、若い方々に身を持って体験し、どんな職業に就くにしても未来の環境のことを考えてもらいたいと思っているのです。
最近、飲食店では、環境に配慮してプラスチックストローを紙ストローに変えるなどの取り組みが行われておりますが、産業廃棄物処理業の環境への向き合い方はそういった身近で触れるSDGs的な取り組みの延長線上にはないと思っています。
もっと環境の“リアル”に向き合っています。
ですので、若い方々に「人間が生み出す廃棄物を、一度は目で見てもらいたい」という強い想いを持っています。
生きていると、どうしてもゴミを捨てますよね。ゴミを出しませんよという人はなかなかいないと思います。
それらは家庭ゴミのお話ですが、産業廃棄物もまた凄まじいのです。
例えば、道路工事の際にアスファルトを剥がすじゃないですか。
そのアスファルトがどのように処分されてるのか?誰が処理してるのか?という、生活のなかで当たり前にスルーされてしまうことに、若い世代には目を向けて知ってもらいたいっていう気持ちがあって、新卒採用やインターンには特に力を入れてます。
ここで体験してもらったことは、これからこの先決して悪い経験にはならないと思っています。
その体験から、本当の意味で物を大切にすることの重要さを学んでくれると嬉しいです。
父が日記で大気汚染について言及していましたが、すでに50年以上前から環境問題はあったのです。
それが今、ようやくSDGsという概念(言葉)によって流布するようになりましたが、環境問題は単なる流行ではありませんよね。
この先、地球はあとどれだけ自然環境の現状維持ができるのか?は本当に今の人たちにかかってると思います。
正直、今までは経済成長のために地球環境に配慮できていなかった部分があったと思います。
「それでは、これからの若い方々たちは将来に向けてどうして行きますか?」と今問われていると思いますので、我々も一緒に考えていきたいのです。
━━━貴重なお話ありがとうございます。最後に読者の方々に伝えたいことはありますでしょうか?
私たちのふっと何気なく通りすぎてしまう生活の中には、すごくいろいろな活動があって、そのおかげで、今のこの生活環境が維持されてるということを一人でも多くの方が知って、意識してくださると嬉しいなと思います。
家庭ゴミも今や分別するのが当たり前になっていますが、分別したそのゴミがその先にどうなるのか?なんてなかなか考える機会はないと思います。
その裏には“想いを持った人”がいるということを多くの方が知ってくださると嬉しいです。
この事業は、「本気の“想い”がないとできない。」
だからこそ、今この事業をやってるという事実が、何よりも“想い”を持っている証拠です。
これからも実直に一生懸命取り組みを進めてまいります。
━━━本日はありがとうございました。引き続きよろしくお願い申し上げます。
この記事を書いた人
クリエイティブ担当