【蓄電池の価格は高いのか?】業界20年の専門家に聞く、蓄電池の価格について。

投稿日:2024年11月24日
更新日:2024年11月25日
蓄電池の価格は「電気代(電気の価値)」で決まる?

要約

中国メーカーの市場席巻と日本の課題:中国はリン酸鉄系電池の技術とコスト競争力で市場を席巻しており、日本メーカーはその規模と価格競争に苦戦。しかし、質の高い製品を持つ日本メーカーも一定の市場シェアを維持しています。国策による支援が中国の成功要因として挙げられる一方、日本でもコスト面の課題克服が重要視されています。

技術革新と市場ニーズのバランス:電池市場は既存技術の改良と新技術の開発という二つの方向性が共存。全固体電池のような新技術が注目される一方、既存技術の延長線上での革新が多くのユーザーから支持を得ています。新技術の普及にはコスト削減と市場の受容が必要であり、既存技術とのバランスを取りながら進化が進められています。

蓄電池の普及と価格動向:蓄電池市場の主要国はアメリカ、ヨーロッパ、日本で、それぞれの地域での自然災害やエネルギー政策が普及を後押ししています。価格は需要、供給、生産規模に影響され、相対的な電気代の変動も評価に影響。大量生産や政策支援が進むほど価格低下が期待されるものの、材料や商流の問題が解決すべき課題として残ります。

出演者紹介

西岡敏也
パナソニックエナジー株式会社|エナジーソリューション事業部

西岡敏也

2002年、三洋電機株式会社に入社。 日本と中国でPC向けバッテリーの拡売・開発・製造などを歴任した後、蓄電営業部にてリチウムイオン電池を活用した製品の開発、提案に携わる。 社会における蓄電池の使途が大きく変化する中で、家庭用、基地局用、産業用、インフラ用(主にデータセンター)など様々な領域で、国内、アメリカ、ヨーロッパの蓄電池拡売を担当。 現在はパナソニックエナジー株式会社で、“環境ソリューション” 領域へ蓄電池を拡売するチームを率いる。

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

蓄電池の価格は「電気代(電気の価値)」で決まる?

世界規模で加速する再エネ普及の波とともに「蓄電池戦国時代」に突入する現代の社会。

前編では、「そもそも蓄電池とは何なのか?」から「最新技術と今後の展望」まで、パナソニックエナジー株式会社 西岡敏也氏に解説して頂きました。

後編となる本稿では、蓄電池を積極的に活用している国々の特徴とその背景を探ります。

世界各国のメーカーがしのぎを削り、発展してきた蓄電池市場。

日・中・韓を中心に争われてきたシェアの変遷の歴史を、20年間その目で見てきた西岡氏は、蓄電池の価格動向とその将来についてもどのように考察するのか。

また「車載用」蓄電池と「定置用」蓄電池の両面から、蓄電池技術の進化がもたらす社会や経済への影響を考えます。

各国蓄電池メーカーのシェア(現状と今後) 

━━━そうなると、前回お話しした3元系のリチウムイオン電池は、もともと日本のメーカーが力を入れて開発していた種類の電池という理解でよろしいでしょうか?また、リン酸鉄については、中国が中心となっているということでしょうか。

日本にも当然ありますが、やはり昨今、世界を席巻しているのは中国です。

━━━それはやはり、リン酸鉄が製造しやすかったり、メーカーにとっても扱いやすいといった背景があるのでしょうか?

やはり国策としての側面が大きいのではないかと思います。

最終的には、投資を行う必要性や、リン酸鉄における技術革新を進める中で、どれだけの投資が可能かという点が重要になります。

日本のメーカーも非常に努力を重ねていますが、もちろんコスト競争も避けられません。その点では、中国の強さが際立っているという印象があります。

━━━それくらいの規模でやられてしまうと、太刀打ちしにくいということですね。

そうですね。

日本のメーカーは少し苦戦しているのではないかという印象があります。ただ、どのメーカーも質の高い製品を持っているのは確かですね。

━━━日本のメーカーもリン酸鉄系の電池を製造しようと思えば可能なのでしょうか?

はい、すでにあります。

━━━その中でやはりコスト面などが課題となるのでしょうか?

そうですね、それが一番苦しいところだと思います。

━━━現在、リン酸鉄系の電池が市場をある程度席巻している中で、最近では全固体電池の話題も取り上げられるようになっています。次に主流となるのは、リン酸鉄やリチウムイオン電池の延長線上にあるものなのでしょうか?それとも新しい技術革新が起こるのでしょうか?全固体電池に関する現状やお考えについて、西岡様の感覚も交えて教えていただけますか。

私も全固体電池については単語レベルの知識しかなく、具体的な内容についてはまだ十分に理解できていません。ただ、難しいのは、電池メーカーが製品までを含めた形でどれだけリードできるか。その点が非常に重要だと感じています。

たとえ優れた製品ができたとしても、それを使ってくれる人たちがいなければ意味がありません。一方で、現在の技術を延長線上で進化させることで、既存の技術に基づいて製品開発を続けているユーザーからそのまま支持を得られる可能性もあると思います。

事業には二つの側面があると思います。

一つは現在の技術をさらに研ぎ澄ます方向性で、もう一つは全く新しい技術を開発する方向性です。この二つのアプローチが共存しているのではないかと考えています。私はどちらかというと、現在の技術を基盤にして延長線上の革新を追求し、それを支持してくださる層を見つけていく方針を取っています。

━━━答えにくい質問かもしれませんが、仮に全固体電池のような新しい技術が登場した場合、従来の延長線上の技術が全く使われなくなる可能性もあるのでしょうか?

それは確かに難しい問題です。

経済学的にも、新しい技術は導入当初はコストが高いという課題があります。その技術が普及するためには一定の時間が必要になります。一方で、既存の技術はすでに市場に広く普及しているため、コスト面での優位性を持っています。この点はバランスの問題だと思います。

最初の3元系電池が登場した時も同じような状況で、市場に広く普及し、他の技術や製品とセットで利用されるようになるまで、価格が大きく下がることはありませんでした。それが新しい技術であっても、普及するかどうかは未知数ですし、それにはさまざまな条件が絡んでくると思います。

━━━確かにその通りですね。コスト面や市場の受け入れに関しては、慎重に見極める必要があります。ただ、経済の理論を考慮すると、新しい技術がいきなり大規模に普及するのは難しいでしょうね。市場の段階的な受容と、それに伴うコストの低下が必要になると思います。需要と供給の観点から考えても、やはり時間がかかるということですね。

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「車載用」と「定置用」蓄電池

━━━中国メーカーがリン酸鉄系で市場を席巻している理由として、車載用にセットで搭載されていることが大きな要因だという話でしたよね。この車載用のリチウムイオン電池の「レシピ」と、住宅用や大型蓄電池など、車載以外の蓄電池の「レシピ」は異なるものと考えてよいのでしょうか?

異なりますね。異なるからこそ、名前も異なっていると思います。

━━━車載用の蓄電池と定置用の蓄電池、例えば住宅用や大型蓄電池の役割や性能の大きな違いはどこにあるのでしょうか。

基本的には、「この用途だからこの電池」というよりも、まずその製品の仕様やスペース、価格感など、実現したい条件が先に決まるのだと思います。

そこに合う電池を選択する形になるんですね。

例えば、車の場合でも、すべてがリン酸鉄系というわけではありません。当然、弊社の電池をお使いいただいているケースもあります。特に移動する小さな空間でエネルギーを蓄えるとなると、「長く走れる」というニーズが重要になります。

その場合、エネルギーを多く詰め込める電池の方が適している、という選択になることもあります。結局のところ、どう使いたいかがまずあり、それに合わせて電池が選ばれるのだと思います。

━━━その電池の使い方によって、作られる電池の種類やレシピも変わってくるわけですね。

そうですね。

━━━ということは、1つのメーカーがあらゆるニーズに合わせて、ある程度レシピや実力を変えたり工夫することは可能ということですか?

可能です。ただ、それを会社としてやるかやらないかという判断になります。

━━━技術的には可能でも、会社や国としての方針が関わってくるということですね。

そうですね。先ほどの国策の話ともつながりますが、最終的にはどうするかという選択になります。

ただ現実的な話をすると、例えば「明日から違うものを作る」となった場合、材料をどこから調達するのか、製造する工場はあるのか、その技術を誰が開発するのか、安全性はどう確保するのか、など多くの課題が出てきます。

メーカーとしては、そうした現実的な問題に直面することになります。

そのため、これまで培ってきた技術をベースにして、それをさらに磨き上げ、つまり「尖らせる」ことで、ユーザーの使い勝手を向上させる。それが私たちの取り組みであり、他のメーカーも同じように努力しているのではないかと思います。

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蓄電池を積極的に活用する国の特徴

━━━蓄電池の活用が進んでいる先進国というと、どの国が挙げられるのでしょうか?また、蓄電池が作られているメーカーの変遷だけでなく、それが活用されている国の変遷についてもいかがでしょうか。

家庭用蓄電池の市場規模に関する一般的な調査情報によれば、2024年以降、最も大きな市場はアメリカになる可能性があります。

次いでヨーロッパ、そして日本が世界第3位か第4位となり、その後にオーストラリアが続くと予想されています。これらの国々が主要な市場となると考えられます。 

━━━日本もまだ普及が進んでいない印象がありましたが、世界で3位くらいの規模に位置しているのですね。

そうですね。規模という点では他の国とかなり違いますが、普及率の順位ではそのあたりに位置しています。

━━━アメリカが1位というのは、単純に市場規模の問題なのでしょうか。それとも、独自の取り組みや考え方が背景にあるのでしょうか。

アメリカに限らず、欧米と日本を比較すると、経済的・社会的な環境と自然環境が蓄電池の普及に最も関係しているように思います。

世界的に「環境の重要性」が認識される中、アメリカでは、東部でのモンスーン(アメリカ版の台風)や西部での山火事といった自然災害が頻発しています。

また、送電網の強度や信頼性が課題となっており、「蓄電池を設置しよう」という動きが広がっています。さらに、アメリカでは国の政策として、発電所や送電網を強化するか、再生可能エネルギーと蓄電池を活用するかが議論されています。現状では、後者を推進する傾向があるようです。

ヨーロッパでは、特にドイツが普及の先進国として挙げられます。原発停止を宣言し、再生可能エネルギーへの転換を進めた結果、蓄電池の普及が加速しました。また、最近の戦争がその動きをさらに加速させた側面もあります。

日本では、東日本大震災が蓄電池普及の大きなターニングポイントとなりました。この震災を契機に、国が補助金を導入し、蓄電池の普及を支援する政策が進められました。この補助金政策は公共の資金を蓄電池普及に振り向けるものであり、これに賛同する世論が形成された結果と言えるでしょう。

また、日本では自然災害が多いこともあり、災害時の保険的な役割として蓄電池が重要視されています。電気代削減などの経済的メリットもありますが、基本的なスタート地点はBCP(事業継続計画)の一環、つまりバックアップとしての安心材料という位置付けが大きいと感じます。

━━━それに付随して経済的な要素も関わってきますよね。

はい、経済合理性やコストをできるだけ抑えることなども重要になってきますね。

━━━そう考えると、比較的経済的に余裕のある国が普及を進めているイメージがあります。

そうですね。今挙げた国々はGDPが高いという背景もあります。ただ、一方でGDPが高い国でも普及が進んでいない場合もあります。例えば、お隣の韓国や台湾を見ても、それほど蓄電池が急速に普及している印象はありません。

これは国土や地理的条件、あるいは国策などの違いが影響しているのかもしれませんね。

━━━普及には色々な複合的な要因が関係している。

確かにそうですね。「豊か」という表現は少し違うかもしれませんが、やはり経済的な余裕がある国であることが1つの要因として挙げられると思います。

どうしてもそうなりますよね。経済合理性がありつつ、BCPのような分野に対しても投資する余裕がある国だからこそ、蓄電池の普及が進む環境が整っているのかもしれませんね。

蓄電池の価格の今後

━━━最後に「定置用の蓄電池を家庭や工場に設置する際、価格は今後どうなるのか」という点について教えてください。社会的な変遷やニーズの変動を踏まえて、価格が下がるのか、それとも上がるのか。その要因についてはどうお考えでしょうか?

これは確かに難しい問題ですね。ただ、大きく2つの視点で考える必要があると思います。

まず1つ目は、「高い・安いとは何を基準にするのか」という相対的な視点です。例えば、毎月の電気代が10万円かかると仮定した場合、5年間で50万円、6年間で60万円かかる計算になります。この金額を基準にすると、現在の蓄電池が「高い」のか「安い」のかが見えてくると思います。

また、ヨーロッパでは戦争の影響で電気代が非常に高騰している可能性があります。もし日本でも同じような状況が起こった場合、蓄電池が相対的に「安い」と感じられることも考えられます。このように、電気代の変動や経済的な状況が、蓄電池の相対的な価格評価に大きな影響を与えると思います。

次に、絶対的な価格の視点です。ここでは、材料費や製造コスト、さらには商流やバリューチェーンが大きく関わってきます。メーカーとしては、いかに多くの製品を生産できるかが鍵となりますし、材料メーカーが市場の拡大にどれだけ対応できるかも重要な要因です。

最終的に価格は「数の論理」に帰結すると思います。大量生産が可能になれば価格は下がるでしょうし、そうでなければ政策的な補助やコストを抑える努力が必要になります。

結局のところ、価格の変動にはさまざまな要因が絡んでおり、「下がる」とも「上がる」とも単純には言えないのが現状だと思います。

━━━1つ目の相対的な話でいうと、蓄電池が高いかどうかは電気代に左右される部分があるということでしょうか。

考え方としてはそういう側面もあると思います。屁理屈だと言われればそれまでですが、確かにあると思います。

━━━電気代が変わると、蓄電池に溜まる電力の価値も変わるということですよね。

そうです。極論を言えば、もし世紀末のような状況が訪れて発電所がなくなった場合でも、蓄電池が1つでもあれば取り合いになるかもしれません。それだけ価値があるということです。

━━━経済的な観点もありますが、単純にニーズや価値という視点も重要ですね。

そうですね。結局、どれだけ多くの人が「欲しい」と思っているかで価値が決まります。その需要と、時間の経過による供給の増減が価格を決定づける要因です。

━━━なるほど。数が増えれば価格は下がりやすい、という一般論もありますね。

はい、一般的にはそうだと思います。

━━━この数が増える方向性についてお聞きしたいのですが、先ほど定置用の蓄電池と車載用の蓄電池では用途や求められるもの、さらにはレシピも異なり、簡単には変えられないというお話がありました。これをあえて2項対立で考えた場合、今後普及が進んで価格が下がっていくのはやはり車載用なのでしょうか?

定量的な面で言えば、そうだと思います。ですので、我々もその点で努力を続けています。今日は蓄電池の話が中心ですが、弊社では蓄電池以外にも、さまざまなアプリケーション向けの電池を製造しています。

蓄電池単体で見ると、数の増加が目立つかもしれませんが、例えば3元系のリチウムイオン電池を製造する際には、材料をある程度まとめて製造することが可能です。こうした仕組みも含めて、パナソニックエナジー全体では非常に多くの電池を取り扱っています。

そのため、市場の動きをしっかりと追いながら、普及をできる限り加速させる努力を続けている、というのが現在の状況です。

この記事を書いた人

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴も。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)を取得。

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